バキッ!ドカッ! 焼却炉周辺に鈍い音がこだまする。内村と南原は列に焼却炉へ連れて行かれると、早速殴り放題にされていた。2人とも意識はあるものの、力無く座り込む。列は内村の胸倉を掴んで言った。 「いっちょまえに神山と組んでクーデターか?ああ?」…
「誰だお前。」 近江とは似ても似つかないその男に勇は問うた。陣内は(秀ではないため当然ながら)自分のことなどまるで覚えていない様子の"神山"に言う。 「おいおい、俺に一番ボコられといて忘れちまったのかい?腹蹴り一発で血ぃ吐いてたじゃんか。」 1年…
「近江を止めろだぁ?なにそれ?」 電話の向こうからの出し抜けな頼みに、陣内は思わず聞き返す。 『在木が絡んでるんだ。詳しくは後で話すから、とりあえず明日清十郎を止めてくれ。』 「まあ、考えてみるわ。」 そう言って電話を切ると、早々に独りで文句…
「神山の奴…雷藤仁と相当親しいみたいっす。」 居酒屋の席で加藤は、早乙女達を前にするプレッシャーの中で恐る恐る話し出した。佐川が口を挟む。 「雷藤仁?誰それ?」 「自分…中学んときこっちに転校してきたんすけど、転校前の地元で番張ってた奴です。で…
「俺はお前らがやり過ぎないように止めに来たつもりだったが、まさかこんなことになるとはな。」 近江は未だ動けずにいる在木をリュックを枕にして横にさせると、ボヤくように言った。その傍らで在木も力無く愚痴る。 「ちくしょう…何だこのザマは…。」 「あ…
在木と前園は公園の地面に倒れ、気絶している。勇はそんな2人を尻目に、自分の通学カバンについた砂を払っていた。 「行こう。」 勇の戦いぶりを改めて目の当たりにして硬直する2人を、事も無げに促す。勇の言葉を聞いた途端に南原がさらに苦悩の表情を浮か…
公園は喧嘩の現場を中心に、異様な空気に包まれていた。勇を真ん中にしてその左に在木、右側には前園を配して、戦局は膠着状態だった。 (遠藤がやられるわけだ。こいつは強ぇ。) (もともと強くなきゃ、1年でこんなに強くなれないね。) (今は間の読み合い。先…
遠藤が静養しているベッドのある病室のドアが開き、1人の男が現れた。 「清十郎…。」 「どうだ?」 容態を気にして近江が声を掛けたが、遠藤は"神山"の件での近江の行動を快く思っていなかった。遠藤は容態を答える代わりにそっぽを向きながら吐き捨てた。 …
江上との話を終えた勇が席についていると、内村と南原が連れ立って教室へ戻ってきた。 「内容は?」 「在木が放課後、お前に会いたいそうだ。」 「そいつも親衛隊だったな。」 「ああ。」 この"謹慎期間"を利用し、親衛隊を1人ずつ倒すのが勇の当分の間の目…
「木下さん…知ってるでしょ?彼女名義の通帳なの。」 秀としてこの学校に潜り込んだ以上当然のことだが、全て知っている体で話が進んでいる。まさか実は双子の弟だったなどと、こんなところでバラすわけにはいかない。 「実は…1年前の事故で記憶がほとんどな…
生徒のほとんどが窓際に集まっていた。窓の向こうで何やら話している勇と近江のやりとりを、固唾を呑んで見守っている。 「あいつら、何話してるんだ?」 「俺が知るかよ。」 南原の疑問に内村がぶっきらぼうに答える。タイマンではなさそうなどと話している…
「どういう意味ですか?」 泰山高校の校長室。刑事の倉田は、この学校における校内暴力の実態調査に来ていた。しかし当の校長はというと、この問題に関心がないどころか迷惑そうにすらしている。 「言った通りです。刑事さん、考えてもみて下さいよ。」 「倉…
降りしきる雨の中、対峙する2人。遠藤の目は、彼が手に持つ刃と同じくらい禍々しい光を放っていた。 (近江は番を張る程の男。ぬるくはないだろう。遠藤と親密だと仮定するなら、今ここで徹底的に叩きのめす。ヤツを誘き出すために…。) 「カァッ!」 勇が改め…
「うまいことかわしたじゃねぇか。」 勇はガードの隙間から滑り込んできたあの蹴りを、後ろに下がって躱していた。 「躱した?喰らってよろけただろ?」 「ダメージを受け流したんだ。」 南原の質問に連れの男が答える。 「それでもどっちみち遠藤が有利だろ…
「ちょっと、シュウ!」 唐突に現れた江上に戸惑っている勇を指差し、江上が言った。 「部室に来てって言ったじゃない。」 「あ…色々あってね。」 どうやら勇は、江上に部室へ呼ばれていたのを忘れていたようだ。だが江上は、勇が忘れていたことをそれ程気に…
「放課後ついてこい。」 南原は放課後、例の公園に勇を連れて行くための通達をした。 「近江か?」 「いや…遠藤剛。1組の番長だ。」 「そいつも親衛隊か?」 「違うが親衛隊レベルの実力者だ。」 1年生会員のスカウトも終わった今年の4月中旬、親衛隊の選抜…
泰山高校には今、『いじめ・校内暴力摘発・補導週間』ののぼりがかかっている。先の山崎の件を受けての事だ。しかしそんなのぼりなど、暴力を振るう側にとっては何の変哲もないただの風景でしかない。たった今も、暴力を"振るうための"相談がされていた。 「…
内村はただ黙って2人の喧嘩を見ていた。今この場で彼にできることなど、何もなかった。 「何やってんだ内村!2人でやりゃこんなカス…。」 「いや、無理だと思う。」 勇の強さを身を以って知る内村である。自分が加勢したところで太刀打ちできる相手ではない…
「な…何だと!?テメェこの野郎!」 勇の挑発に南原が激昂する。すかさず内村が止めに入ったが、謹慎が言い渡された直後に勇を焼却炉へ連れ出した男の言葉など、聞くはずもなかった。 南原が内村を見ているタイミングで、勇が目で合図をする。やる気だ。 「オ…
「なに止まってんの?」 バイクレースを中断して電話で話す仁の隣に、仲間が停まる。すると仁はポケットの中から1万円を出し、その仲間に渡した。 「ほい、1万。お先〜。」 仁は賭けレースの清算を済ませると、そそくさとその場を去っていった。仲間は狐につ…
加藤の闘志はまだ衰えない。上着を脱ぐと、今度こそはと本気で殴りかかった。が、勇はあっさりとそのパンチを捌くと強烈なパンチを浴びせ、加藤をその数メートル後ろにあるフェンスまで吹っ飛ばした。加藤はおびただしい量の鼻血を垂れ流しながらフェンスに…
「あの…葬式の手伝い、やらなきゃダメっすか?」 さすがの加藤にも、良心の呵責というものがあるらしい。彼は、自分が原因で自殺した山崎の父親と顔を合わせることに対して及び腰になっていた。 「手伝いをすればパシリの父親はあなたに感謝するでしょう。」…
勇は帰宅すると、部屋の壁に仕入れた情報をまとめた。 ・内村清隆…取り込み/まだ不信 ・江上百々…味方 ・山崎 …ピンチ ・屋上は3年が使用/3年9組 右山道夫=副会長が管理 ・不良は各クラス2〜3人 ・情報は全て共有 ・担任の佐藤は始業30秒〜1分前に到着する …
山崎への執拗な暴力は、とどまることを知らなかった。 「た…助けて…お…お願いします…。」 山崎はうずくまり、両手を合わせて懇願する。もう視線を合わせることすらできずにいた。 "いじめ自殺"のニュースをよく目にする。山崎は自殺を選ぶほどバカじゃないは…
「おっせーな…。」 「殺すつもりかよ。」 教室では、内村の教育ショーを見そびれた南原たちがまだ名残惜しんでいる。そんな折、教室に戻ってた山崎の姿が加藤の目に映った。 「おい、山崎!」 「は…はい。」 「どこ行ってた。」 「え…と…ちょ…ちょっとトイレ…
加藤と南原が、焼却炉に向かって歩いている。内村の勇に対する"教育"を見物するためだ。しかし、周辺に二人の姿が見当たらない。 「あなたたち!」 突如、女の声が二人を呼び止めた。 「はい?」 「こんなところで何やってるの?授業始まるわよ。」 「あ…そ…
「テメェみてぇな奴はよ、痛い目みなきゃわかんねぇ人間なんだ。だから俺が教育してあげてるわけ。」 内村は勇の髪を鷲掴みにしながら見下したように言う。だが勇はそんな内村に、一つ提案をした。 「今その手を離せば、一発分減らしてやる。」 「は?誰が誰…
(叩き伏せるのは簡単だが…。) 今目の前にいる二人など、札付きの不良だった勇にとっては取るに足らない相手だ。お陰様で今しがた、つい無意識に反応してしまった。しかし秀になりすましている今、大勢の前で正体を晒すのはまだ早い。 「なんか文句あんのか?…
勇が加藤の給食を取りに行っている間も、山崎はやられ放題だった。果ては反省と称し、食堂の隅でひざまづかされ、両手を挙げたままでいる。晒し者である。食堂にいる生徒達は皆、軽蔑や憐れみの視線を向けていた。 秀が通っていた高校は男女共学だが、校舎は…
空いている席を探し歩く勇の足元に、足を伸ばす男がいた。人前で恥をかかせる、典型的な手だ。 (古い手だ…) と思いつつ、勇は派手にコケて見せた。 「おっと〜。」 勇が転ぶ大きな音と共に教室中に沸き起こる嘲笑。散らかった教科書などを拾い集める。ノート…