復讐の毒鼓 第13話
「な…何だと!?テメェこの野郎!」
勇の挑発に南原が激昂する。すかさず内村が止めに入ったが、謹慎が言い渡された直後に勇を焼却炉へ連れ出した男の言葉など、聞くはずもなかった。
南原が内村を見ているタイミングで、勇が目で合図をする。やる気だ。
「オラ、ついて来い。」
一応雰囲気を出して連れ出す。
「今度こそ徹底的に叩き込んでやるよ。死んだ方がマシと思うくらいにな。」
南原のそんな脅し文句にも勇は動じない。
「いいよ。」
とだけ言うと焼却炉へ向かう勇の姿は堂々としたものだ。思いもかけぬ勇の態度に、南原は少し動揺した。周りの一般生徒達も、ただ怯えながらその様子を盗み見するばかりだった。
仁の駆るバイクが、とある店の前に停まった。ふくよかで、かなり頑固そうなオヤジの顔が描かれているその看板には『MASUDA CHICKEN』と記されている。
「いらっしゃいませー。」
仁が呼び鈴を鳴らすと店の奥から出てきたのは、仁と同じく勇の旧友である風見愛だ。そして彼も、泰山との決戦のメンバーだった。
「あ、来たんだ。毒鼓は?」
「会ってきた。」
バイト中のはずの愛だったが、仁の顔を見るなり話が始まる。
「これで役者は揃ったね。」
「いや、あいつは抜かす。カタギんなってたわ。」
仁からの思いがけない知らせに一瞬驚く愛だったが、こちらもやはり嬉しそうだ。
「あいつの邪魔しねぇで、俺っち達だけでやろー。」
「そうだね。僕も今回きりで資格でも取るつもりさ。」
2人はこれを機に、不良を引退しようとしていた。今回の決戦はそんな2人にとって、引退式の意味合いを持っていたのだ。
「やっとまともになったか。」
「まあね。ワルばっかやって、我ながらバカだったよ。」
不良からの更生の道を志す愛を見て、仁も安堵の表情でねぎらう。と、ここで話は本題に戻った。
「ーーで、相手はどんなやつなん?」
「知らなーい。"通学組"ってこと以外は。」
「なーんだ、"通学組"か。つまんなそー。」
「長時間苦しめてやりてぇが、先公にも目ぇつけられちまったからな。一発で終わらせてやる。歯食いしばれよ。」
焼却炉。南原の勇への教育が始まろうとしていた。
「おらっ!」
咆哮と共に、早速勇に殴りかかる。と同時に南原の頬が弾けた。勇の平手打ちがカウンターで入ったのだ。一瞬何が起こったか理解できないでいた南原だったが、反撃を喰らったと分かると再度、鬼の形相で殴りかかった。
勇は冷静だった。単純で大きな動きの南原に、次から次へとカウンターでビンタを打つ。片手など、ポケットに入ったままだ。
「な…何なんだよ…。」
そう言った途端にまた頬を張られる。勇は下ろしていた髪を一つに縛りながら言った。
「ひざまずけ。」
「テメェ…何つってん…。」
バチンッ!
勇はまた頬を張った。有無を言わせない。
「ひざまずけ。」
勇の圧倒的な強さと圧迫感。そして度重なるビンタのダメージで、南原はパニックに陥りかけていた。
「おい!なんなんだこれは…。」
堪らず内村に問いただす。しかし既に勇の配下にある内村は、気まずそうに目を逸らすばかりである。
ガッ! ガキッ!
今度は南原の足を蹴る。ビンタのダメージが既に足にきていた南原は、勇のこの2発の蹴りで文字通りひざまずく格好となった。
(お…俺が…震えてる…!?)
南原は得体の知れない恐怖との戦いを強いられていた。