復讐の毒鼓 第31話
バキッ!ドカッ!
焼却炉周辺に鈍い音がこだまする。内村と南原は列に焼却炉へ連れて行かれると、早速殴り放題にされていた。2人とも意識はあるものの、力無く座り込む。列は内村の胸倉を掴んで言った。
「いっちょまえに神山と組んでクーデターか?ああ?」
「ち…違うよ。」
「やめろ。もういいじゃないか。」
大量の鼻血を垂れ流す2人を尚も手荒く問い詰める列を、見かねた近江が制止する。
「んだよ。やめろだと?20位の分際で俺に指図か?会長かテメェは。」
「わるい…。とにかくやめるんだ。」
近江が言い終わるや否や、列は近江を殴りつけた。
「何様のつもりだ。助けてやったのに、お礼どころか誰に向かって口聞いてやがる。」
列は学年が同じであろうと、序列が下の者は徹底的に見下す男だった。立場上列より下にいる近江による言葉での説得は、やはり意味をなさない。会話として成り立ちすらしない現状に、近江はうんざりしていた。
「ふう…。」
「今ため息つきやがったな。」
「助けてもらったことには礼を言う。だからもうやめよう。謹慎中だろ?」
事を荒立てたくない。うんざりしていようとも、あくまで説得を続ける近江だったが、やはり列にその言葉は届かなかった。更に怒りを募らせた列は、おもむろに近江の顎を掴んだ。
「テメェ。なんのマネだ。」
「何がだ。」
「どうもクセェんだよ。こいつら庇ってるようでよ。」
「…。」
「まさか…テメェ"も"か?」
ついに列は近江にも疑いをかけた。こうなっては本当に取り付く島もない。列は焼却炉の陰に向かって大声を出した。
「お前ら、出てこいッ!」
列の号令で5人の男達が現れた。
「陣内の奴、案外頭いいな。念のために何人か連れてけっつってたけど、大当たりだぜ。」
「俺が何をどうしたって言うんだ。」
「まだどうもしてねぇよ。今から確かめるんだ。」
今出てきた男達は、親衛隊にギリギリなり損ねた奴らだった。つまり、それなりの実力を持った者が揃っているということになる。それに列を加えて6人。
(サシなら列に勝てるが、6対1は分が悪い。それに神山がどれほどか知らない以上リスクが高すぎる。ちくしょう!)
近江は考えを巡らせるも、この厳しい現状を打開する策は浮かんでこなかった。
一方公園では、勇の鋭い蹴りを顔面に喰らった陣内が倒れたところだった。しかし腐っても親衛隊16位。この程度では彼の戦意は衰えなかった。
「他の奴らはどこだ。」
「ヤロウ!」
内村達の居場所を聞こうとする勇に一声吠えると立ち向かうが、陣内は勇の動きを捉えられない。切れ味鋭い膝蹴りを鳩尾に喰らってまた倒れると、呻き声を上げた。
「ぐうぅ…。」
「無駄な抵抗はやめた方がいい。内村と南原はどこだ。」
(油断しすぎたね。こっから本気モード…。)
陣内の闘志はまだ萎えずにいた。ここから一気に逆転する。余力はまだある。
「なかなかやるじゃ…。」
そう言いかけた陣内の顔に、勇のパンチが飛んできた。
「うおっ、ちょっ…。」
言葉にならない声を上げながら辛うじて避けるも、続く連打には反応できなかった。
「ストッぷぐっ。」
「ストップだ?」
ゴスッ!ガスッ!
陣内の顔に次から次へとパンチを打ち込む。瞬く間に大量のパンチを浴びた陣内はなんとか倒れずにいるものの、既に足元はおぼつかなくなっていた。しかし勇の無慈悲な連打は続く。右拳で力一杯殴ると、今度は足の裏を顔に当ててそのまま地面に叩きつけた。
「あううあ…。」
勇が髪を掴みあげると、陣内は虚ろな呻き声を上げる。既に半分白目を剥いており、意識もはっきりしない陣内の顔を、勇は平手で何度も叩いた。
「おっと、まだ気絶するなよ。答えがまだだぞ。」
「し…らねぇ…。」
平手打ちで意識を取り戻したのか、なんとか返事をする。しかし尚も口を割らない陣内に勇の追撃は止まらなかった。
「どこだ。」
ガッ!
「くうっ。」
「どこだ。」
ガッ!
「しら…ねぇ…よ。」
あくまで口を割る様子のない陣内に、勇はより残酷な方法を選んだ。
「今から質問はナシだ。答えたくなったら答えろ。」
それだけ言うと、勇は陣内を無言で殴り続けた。