復讐の毒鼓 第32話
焼却炉からまた鈍い音が響き始める。5人の男達からの暴行を、近江はガードしながら必死に耐えていた。
「やめろ。これ以上は俺も…。」
「これ以上は俺も…なんだ?やるしかねぇってか?勝てると思ってんのか、ボケ。」
近江を見下し、蔑む列の姿勢はブレない。
「やめるんだ。」
「はいはい。」
「やめるんだっ!」
「テメェごときの命令で"はい、わかりました"とでも言うと思ってんのか!?」
声を荒げる近江に怒鳴り返す。しばし睨み合う2人。近江の目つきが変わった。腹を決めたのだ。
「あ?なんだその目は。」
「仕方ない。正式に喧嘩してやる。」
ここまでいいようにやられては我慢ならない。しかし近江のこの宣言は列にとって、裏切り者確定を意味した。
「ハッ!やっぱお前もグルだったか。俺らと本気でヤるとはよ。笑っちまうぜ。」
列がこの蔑みに満ちた言葉を吐き捨てた時、内村と南原はお互いを見やると近江の前に並んで立ち、構えをとった。
「何だ?」
「一緒にヤるよ。」
内村のこの発言に、近江の表情が少し緩む。
(ふっ、かえって邪魔なんだけどな。気持ちは嬉しいが…。)
その時、列達の間に嘲笑が湧き起こった。
「ぎゃははは。お前ら何レンジャーだよ。さっさと済ませるぜ。」
ひとしきり嗤うと、6人は近江達に向かって走る。乱闘の火蓋が切られた。列が南原を殴る背後では、内村に飛び蹴りを喰らわす者がいた。そんな中、一人の男が近江の顔めがけてパンチを放った。近江はそのパンチを受け止めるとそのまま手首を掴み、関節を壊した。
グキッ。
「ぎゃあああ!」
列がすぐさま悲鳴の聞こえた方へ振り返ると、ちょうど相手の手首を壊した近江が立っている足元で男が1人、呻いていた。
「手…が…。」
打撃では不利と判断した近江は、サブミッション(関節技)で攻める作戦を立てていた。そんな近江を前に、列の顔がみるみる歪んでいく。
「テメェ…。お前らはのいてろ。あいつは俺がヤるわ。」
再び睨み合う2人。
「ザコが。」
構えをとる近江に一言吐き捨てると、列は近江の顔めがけて左拳を放った。近江はこれを右へサイドステップして避ける。そうして列の左アウトサイドをとった近江は、細かい左ジャブから右ストレート、次に右アッパーと、続け様にパンチを放り込んだ。列の体が吹っ飛ぶ。近江は残る5人の方へ向き直り、睨みつけて言った。
「こうなった以上、お前ら全員叩き潰す。」
列を吹っ飛ばし尚も威圧感を放つ近江に、5人は少々気後れしていた。
「それでも数はこっちが有利だ。」
「そもそもあいつは親衛隊の器じゃなかった。」
「ああ、遠藤がなるはずだった。」
5人は自分を鼓舞し合い、近江と向き合った。そしてその内の1人が異様に殺気を帯びた声で言った。
「抜け。」
一声の元、5人中4人がナイフを手に構える。
(刃物が4本…まずいな。)
再度劣勢を突きつけられた近江の眼前に、突然バットが現れた。内村だった。
「おいおい、学校に刃物は持ち込み禁止だぜ?」
「あの野郎。」
「いいからやっちまえ。」
「行くぞ。」
「おらあああっ!」
再び乱闘が始まった。多勢を前にバットを振り回す。しかしそんな内村の脇腹に、今まで感じたことのない猛烈な痛みが走った。1人の男がナイフを突き立てていた。