復讐の毒鼓 第59話
「夜会おうって言ったじゃん。なんで来たの。」
仁は愛からの電話を受け、すぐさま予備校まで足を運んでいた。
「気になったら我慢出来ない俺っちの性格知ってるっしょ。それにどーせ夜はデリバリーのバイトで時間ねーじゃんよ。」
「まぁね。ど?整備士の塾は。」
「んー、ぼちぼち。どこんちにもパソコンあっから整備士になればまぁ食いっぱぐれはしねーだろーと思って習ってっけど、ソフトウェアの方はさっぱりワケがわかんねーよ。本体の部品交換とかは結構出来んだけどよー。お前の方は調子どー?」
「大検の模試で全科目70点以上クリア。90点越えもあったよ。」
「スゲーじゃん。高卒になるのもそう遠い未来じゃねーじゃん。ここで話すのもなんだし、カフェでも行こうぜ。」
親友との近況報告に花が咲く。お互い、しっかり前を向いて頑張っているのだ。落ち着いて話がしたい仁に、愛は自販機で買ったカップのコーヒーを渡した。
「砂糖にミルクたっぷり。身体に悪いもんが最高。」
仁の皮肉とも取れるセリフをよそに、愛は早速本題に入る。
「あのさ、こないだあの"3人組"と喧嘩した時、早乙女がお前が神山秀知ってるか聞いてたじゃん。」
「あぁ、勇?」
「神山秀って、勇なの?」
仁は以前泰山で待ち伏せして勇と会った時に、制服の名札に『神山秀』と書いてあったことから"神山秀"が勇の本名なのかと思っていた。
「本当に?なんか辻褄が合わないような…。」
「なにが?」
「ジョーが来て教えてくれたんだけど、早乙女が神山秀のこと調べてるんだってさ。ジョーは僕たちとつるんでるのが神山秀だと勘違いして僕んとこに来たみたいだけど。」
「ふーん。早乙女が嗅ぎ回ってるワケね。」
「毒鼓って勘づいてるんじゃないのかな。」
そんな話をするうち、仁は心底うんざりした顔でボヤいた。
「ったく…。心入れ替えて勉強しようってヤツ、放っといてやればいーのによー。うぜーヤツ。」
「こっちのみんなにも、早乙女には黙ってろって言った方が良さそうだね。」
「あぁ。皆の口封じのついでに、そろそろ勇に会おうぜー。だいぶ会ってねーし。」
勇の復讐計画は順調かに見えた。親衛隊7位の七尾が"神山"と会いたいと連絡が入ったことを内村が勇に伝えると、勇はこの計画の最終局面を頭の中で睨んでいた。
(計画通り、テンポ良く進んでいる。想定外のことが起きなければ、今週のうちに早乙女と決着をつけられるだろう。)
(今頃計画通り進んでるとでも思ってるんだろう。)
屋上で独りタバコを吸いながら、早乙女は心の中で呟いた。
(そろそ、動くか…。)
ピロリン♪
教室の自分の席で突っ伏して寝ていた南原の携帯が鳴る。メッセージを確認すると、南原はすぐさま3年9組の教室へと足早に駆けていった。
「せ…先輩…なんでしょう。」
「おー、ちょうど売店行くとこだったんだ。行こーぜ。」
右山は南原の方に手を置くと、売店に向かって歩き出した。
「お前内村と仲良かったな?」
売店への道すがら、右山が唐突に訊いた。
「はい?まぁ…。仲が良いってゆーか、同じクラスなんで…。」
「内村はお前より順位低いよな?」
「はい。」
「だよな。じゃー内村が早乙女に会ってなに話したか知らねーな、その様子じゃ。」
「はい…?なんのこと…ですか?」
「謹慎期間が終わったら、内村が2組の番長になるらしい。序列はお前の方が上なのに、どうしてそうなったかはわからねぇ。」
南原の胸の中のザワザワしたものが、どんどん膨らんでいく。
「内村が…早乙女さんに会ったんですか?」
「あぁ。2人で何話したかは知らねぇがな…。序列シカトして番長決めんのは納得いかねーよ。」
南原の頭の中は、いつになくグルグルと回っていた。
(内村の野郎…何考えてんだ…。…いや…待てよ。もしかして自分だけ助かろうと思って俺のこと売ったんじゃ…。だとしたら謹慎期間が終わったら…。)
自分がやられる。組織内の裏切り者として。南原は苦労して導き出したその結論に顔面蒼白となった。
仁はバイクのタンデムシートに愛を乗せ、泰山高校へ向かっていた。
「勇のヤツ、なんで携帯解約したんだろ。」
「さぁなー。ガチで勉強頑張ろうとしてんじゃねー?」
「てか本当に勇に会うにはこの方法しかないワケ?」
「あぁ。校門で待ち伏せて、下校の時に会うしかねーよ。」
下校時刻。辺りは日が落ち、すっかり暗くなっていた。七尾が校門の前に立つ。下校する生徒達の中を歩く勇を見つけると、呼び止めた。