漫画『復讐の毒鼓』 ネタバレ小説ブログ

マンガ「復讐の毒鼓」のネタバレを、小説という形でご紹介させていただいているブログです。

復讐の毒鼓 第60話

「ちょい待ち。」

 下校中の勇を呼び止める。七尾だ。

「オメーらはもう消えな。俺ちんだけで充分そうだ。」

「え?」

 勇と一緒にいた内村達に、七尾が言う。状況が飲み込めずにまごつく2人を、七尾は一喝した。

「失せろっつってんだよ!」

「あ…はい…。」

 七尾は内村達を追っ払うと、馴れ馴れしく勇の肩に手を回した。勇は黙って七尾を睨む。

「オイオイ、少しは笑ってよん、仲良いフリしてさー。ビビんなって。」

 そうして去っていく2人を、内村達は不安げな顔で見送るより他なかった。2人の姿が見えなくなると、南原が突然啖呵を切った。

「オイ、テメー。早乙女さんに裏で媚びてんのかよ。」

「なんの話だ?」

「俺が知らないとでも思ったか、クソが。俺と神山のことチクって早乙女さんに番長にさせてくれっつったんだろ。」

 内村にしても思い当たる節が無い訳ではない。だが南原のあまりに的外れな推測に、内村は溜め息交じりに呟くように言った。

「はぁ…。そこまで考えてよくやるよ。」

「んだと?」

「行こう。向こうで話そう。」

 


「あ、勇だ。」

 仁と愛が、七尾に肩を組まれて歩く勇を見つけた。連れ立って歩く2人に、違和感があり過ぎる。

「あの雰囲気…。」

「仲良しこよしってワケじゃなさそうだね。」

 


「オメーの喧嘩は見させてもらったよーん。やり手じゃんよ。俺ちんでもビビったぜ。」

 喋りながら七尾がタバコに火を点ける。

「あ、喧嘩する前に一服すんの、クセでさ。一本吸い終わるのにどれ位かかるか計ってんのもあるし、その時間内に勝てなかったらプライドがちょっとばかし傷つくもんで。」

 七尾の話を聞いている勇の顔には『どうでも良い』と書いてあるようだった。その目には軽蔑の色さえ浮かんでいる。

「喧嘩するたびに計ってるなんて、よほど頭が悪いみたいだな。」

「クックックッ。大人しくしてっからって…。」

 七尾の目つきが変わる。

「調子乗ってんじゃねーぞ!」

 吸っているタバコの火種を勇の顔へ飛ばす。難なく避けた勇だが、その方向に今度は吸殻が飛んで来る。勇がそれを避けた時、七尾は目の前に迫っていた。

 ドゴォッ!

 渾身のボディブロー。だが七尾は、自分の拳の先に当たったものを見て顔色を変えた。そこにあったのは勇の腹ではなく、腕だったのだ。

「今の隙に防御したのー?やるじゃーん。」

「やり口が汚いな…。」

 七尾の汚い戦い方に、勇は少々苛立っていた。しかし七尾がプライドを持っているのは戦い方などではなかった。

「本当に汚ねぇのは負けるこったろ。ペッ!」

 勇の顔に、今度は唾を吐きかける。それを避けた隙に、勇はボディブローを2発喰らった。続け様に、顔に蹴りが飛んで来る。

(コイツ…やり方が…。)

 七尾の汚い戦い方に苛立ちを募らせながら

も、勇は七尾の軸足を刈って倒した。七尾は倒れたついでに地面の砂を両手に握る。それを勇の顔に投げつけた。目に入ってはたまらない。勇は投げつけられた砂を腕で防いだ。が、もう一度投げられることまでは予想していなかった。二投目の砂に、勇の視界が奪われる。

「オルァ!」

 バキィッ!

 目に入った砂に怯んだ勇の顔を、七尾の蹴りが捉えた。

(このクソが…。)

 七尾の度重なる卑劣な戦法に勇の怒りが臨界点を越えたその時、七尾の動きが止まった。

「あ?」

 七尾の視線の先に立っている男達に勇も気付く。立っていたのは仁と愛だった。

「失せな!」

 不本意な見物人を追っ払う。だがその見物人は、思いもよらないセリフを口にした。

「俺ら帰ったら、お前死ぬぞ。俺っちの顔見てちょっとは冷静になっただろ。ソイツが一番嫌いなのが汚いやり口の卑怯者だからな。」

「テメーらなんだ?死にてーのか?」

「だから、俺らに感謝しなって。お前死ぬとこだったのを助けてやったんだから。」

「オメーらのことも後で可愛がってやっから待ってな。調子乗ったこと言いやがって…。まずは神山から…。」

 七尾の威嚇など意に介さず、あくまで勇が勝つ前提で話を進める仁に七尾にも火が点いた。しかし、今しがたまでの喧嘩の相手の方へ向き直った七尾の目に入ったのは、相変わらず怒りが頂点を越えている勇の顔だった。その顔はは溢れんばかりの殺意を隠そうともせず、この世のものとは思えないほどのおどろおどろしい形相で七尾を睨みつける…。

 

 

復讐の毒鼓 4 (ヒューコミックス)

復讐の毒鼓 4 (ヒューコミックス)

  • 作者:Meen X Baekdoo
  • 発売日: 2020/09/04
  • メディア: コミック