復讐の毒鼓 第51話
「どうしたんだ?」
教室で一人右肩を抑えて腕を回す勇に、内村が気付いてすぐに声を掛けた。
「この間どこかで打ったらしい。肩が痛む。」
「なんだって?」
一大事である。(現状ほぼ一人の)主戦力である勇の負傷とは、内村にとっては絶望的な未来を意味することになるからだ。クーデターを成功させるには、一分の隙も許されない。
「おかしいな。いつだ。」
そんな内村の胸中をよそに呑気に腕を回す勇が、何かノートに書いてよこした。
(怪我したと噂を流せ。)
「!」
新たな作戦が動き始める…。
「んだよ。誰だ。」
3年10組の教室では親衛隊11位、臨堂一が机に伏せて寝ていた。そんな彼の携帯が鳴ったのだ。
「クッソ…あのバカ共…。」
携帯に入ったメッセージに悪態をつくと、寝起きの臨堂は伸びをしながら謹慎に対する愚痴をこぼした。
「んーーーっ!ったくこのクソだりぃ謹慎期間はいつ終わんだよ。パシリもできねーでつまんねーなー!」
「僕だって大人しくしてるんだからさ。少しはガマンしなよ。」
隣から臨堂を諭す八木健介は見た目こそメガネをかけて真面目そうではあるが、親衛隊の序列では臨堂より上の8位だ。
「オイ、メール見たか?5対1でも負けたんだとよ。情けねぇよな。」
「それで?今度ははじめ君の順番ってワケ?助けてあげようか?」
臨堂の話に、八木は読んでいる本から目を離さずに答える。
「るっせーな。誰も助けてって言ってねーっつーの。」
「5対1で勝ってるのに?」
「相手は2年だぜ?こっちは3年だ。」
そんな話をしていると、また臨堂の携帯が鳴った。八木もすぐにそれに気付く。
「なに?」
「一体早乙女はなーに考えてんだろーな。」
「どしてさ。」
「ホレ。」
臨堂が見せた携帯のメッセージ画面には、『内村清隆』とだけ入っていた。
「なにそれ。潰せってこと?」
「南原無しで内村の名前だけ送って来やがった。なんだと思う?」
八木の真面目そうなメガネの奥の目が、にわかにギラつく。
「なにそんな考えてんの。呼び出して潰せばいいだけだよ。」
「あぁ、だな。」
「ボールペン一つ下さい。」
昼休み。大勢の生徒で賑わう購買で買い物をしていた内村の前に、臨堂が現れた。
「テメー、メールしたのに何シカトしてくれてんだよ。テメーごときにわざわざ出向くことになっただろ。」
「あ…先輩…。なんでしょう…。」
「聞きてーことあっから、着いて来な。」
内村の頬を冷や汗が伝う。
「オイ副会長ー。屋上開けてくれてありがとな。」
屋上でタバコを吸っていた右山に臨堂が挨拶する。内村はその後ろで、蒼白い顔で俯いていた。
「やり過ぎるな。言われた通りにだけやるんだ。」
右山はすれ違い様に臨堂にそう言うと、屋上を後にした。早速尋問が始まる。
「テメー…。神山の味方だろ。」
これを聞いた内村は、思わず驚きを顔に出してしまった。
「なに驚いた顔してんだよバーカ。演技の一つもできねーでどーすんだよ。」
「あの…先輩…。なんのことか…。」
顔を指で弾かれながら必死に取り繕うも、後の祭りである。臨堂は内村の腹を一発蹴ると、胸倉を掴んで言った。
「お前がやられたら神山がどー出るか気にならねー?お前の味方か。それともお前をただ利用しただけか。」
「な…なんの話を…。」
あくまでシラを切り通す。バレていると分かっていながらも、内村はそうすることしかできなかった。
「なんの話かって?」
臨堂は拳を握ると内村の左脇腹を殴った。そこは、以前列の手下に刺されたところだった。
「うううぅぅぅ…。」
「あぁ、わりぃ。そこ刺されたとこだっけ。」
蹲って呻く内村は、その激痛から返事をすることもままならなかった。だが臨堂は、そんな内村に無慈悲な制裁を続けた。
「んじゃそこだけ殴ってやるよ。縫い目があっちゃ、お前もヤダろ?」
ドスッ!
腹に蹴りを喰らった内村が、さらなる苦痛に顔を歪ませた。