復讐の毒鼓 第55話
「僕、今日君と戦うつもりないんだけど?」
八木は勇の挑発に固い姿勢を見せた。
「内村。」
「え…うん?」
「アイツは誰だ?」
「八木健介。親衛隊の8位だ。」
親衛隊員とあれば、やはりこのまま帰す訳にはいかない。勇は未だ地面をのたうち回る臨堂の頭を踏みつけ、さらに煽った。
「お前にそのつもりがなくても、俺にそのつもりがあれば戦うんだよ。」
「…分かったよ。その前にファイル送らせてくれ。」
臨堂との喧嘩の動画を送信する。八木は携帯を操作しながら質問した。
「一つだけ聞いてもいい?」
「なんだ。」
「戦ってるヤツは分かんないだろうけど、遠くで見てたら分かっちゃったんだよね。アンタ右肩使えないんだね。それで直接的な攻撃じゃなくて関節狙ったんでしょ。」
「…。」
「悪いけど、そんな身体で僕に勝てると思う?」
八木の指摘に内村が一人、冷や汗を流す。そんな彼をよそに、八木は携帯とかけていたメガネをベンチに置いた。
「送信完了。今に後悔するよ。覚悟しな。」
ピロンッ♪
早乙女の携帯が鳴る。
「佐川。」
「どうした?」
「神山が臨堂と戦ってる動画が八木から届きました。」
早速早乙女と一緒に確認したその動画を見て、佐川は絶句した。
「こんな…。あり得るのか?」
「八木に来てもらって、直接話を聞きます。」
西陽に赤黒く染められた空の元対峙する2人を、内村が固唾を飲んで見守る。
(コイツは一度、俺が戦うところを見ている。今までの油断して来たヤツらとは違う。)
(コイツ本当に神山か?肩を怪我してるくせに隙がない。)
2人が互いに対して持つ警戒感に、公園の空気が張り詰める。
「来ましたか。」
もうほとんど日が落ちて薄暗くなった屋上にいる早乙女に呼ばれたのは、親衛隊6位の六田義男。
「なんの用だ。」
「君は確か神山と同じ中学でしたね。」
「あぁ、そうだ。」
「神山は中学の時、喧嘩が強かったです?」
早乙女は動画の中で臨堂と戦う"神山"が、昨年リンチしたあの"神山"と同一人物であること自体を疑っていた。
「いや、全然。」
「小学校の時は?」
「小学校までは知らねーな。学校も違う。」
「だとしたら休学してた1年の間にもの凄く強くなったってことになりますが、そんなのは無理です。」
「死ぬ気で喧嘩だけ鍛えたんだろ。」
佐川が異論を唱えるも、早乙女は納得しない。
「それ位じゃ説明がつきません。臨堂の相手をしながら、肩は無防備にしている。」
「?」
「彼は『ここが俺の弱点だ。かかってこい。』こう言ってるんですよ。1年の間にここまでできると思いますか。」
「そうじゃなくて右肩ケガしてんじゃねーのか?使えてねーぞ。」
「…なるほど。その線も消さずにいましょう。3年で男女問わず当たって、神山と同じ小学校だった人を探してきて下さい。」
公園では勇と八木の互角の攻防が繰り広げられていた。互いに攻めきれず、決定打がない。
(肩は…全力では使えない。それで勝つには…。あの方法しかないだろう。)