復讐の毒鼓 第54話
『みんなの声』と書かれた投書箱が、泰山高校にある。秀は昨年、この箱へある投書をした。
「神山の投書は、すぐ私の手元に来ました。その内容は、かなり詳細に書かれたナンバーズの内部事情でした。」
「どんな?」
「いくら徴収して、いくら配布しているかなど、事細かに。」
さらに早乙女は、その投書の中に『その他』という項目までもが記されていたことを一条に話した。
「その他?」
「去年の1位から10位までは、今年の2位から11位までと一緒です。君が2学期に転校してきて今年の1位になりましたから。」
「去年の3年は?」
「金だけ巻き上げて、ナンバーズの活動からは外しました。通帳の詳細はナンバーズの幹部と去年の10位までが知っていたはずです。」
「その詳細がその他なのか?その他とはなんだ。」
『その他』に関する質問を、早乙女は煙に巻いた。
「私たちの後ろ盾とだけ知っておいて下さい。とにかく…私、右山、佐川、木下、それから親衛隊10人。私を除いてこの13人の中に、神山に情報を流したヤツがいるってことです。」
その投書を見た早乙女が、パシリを拒否したという理由を付けて秀を潰した。これが、昨年の神山秀暴行事件だったのだ。ただこの件が大ごとになったせいでうやむやになり、秀に情報を流した人物の特定ができなかったのだ。
「そんな中今年、神山が復学してなにかを企んでいる。どうです?神山側についたヤツを探さない訳にはいかないと思いませんか?」
「しかし俺のことはなぜ呼んだ?」
「近々五十嵐が動くはずです。でも五十嵐1人じゃどうも不安です。そこで1位の君が神山サイドにつくとしたら…。」
早乙女は一条の実力を自分とほぼ同等と見ていた。そんな一条が神山につくと知れば、見込みがあると思って動く者が出てくる可能性がある。つまり、不穏分子を簡単に炙り出せるということだ。
「じゃあ、みんなを集めて神山の思惑通りに動けと命令したのは?」
「それは…。彼の耳に入ればと思って…ですよ。」
早乙女は勇を絡め取る罠を、幾重にも仕掛けていく。
「ゴルァ!」
臨堂が吠えながら勇に突っ込んでいく。その臨堂に、勇は距離を取りつつ蹴りを放つ。臨堂はそれを避けると、勇の軸足を掴んで転ばせた。
「なんだその顔。ビビったか?あんまなめんなって。」
(真っ向から戦うと負けると見込んで、変則的な攻撃…。臨機応変に動けるな…。)
ドヤ顔の臨堂をよそに、相手の能力を冷静に分析する。だが一度余裕ができると、臨堂の減らず口に拍車がかかった。
「テメーみたいにがむしゃらに1年鍛えたヤツには使えねーワザだよ。変則的な攻撃。練習より場数踏んでるヤツがつえー理由、知ってっか?臨機応変に動けっからだよ。教科書通りの動きだけじゃなくてな。つまりテメーはどう足掻いたって無理ってこったよ。テメーとオレじゃ踏んだ場数がちげーんだよ。」
「おしゃべりはそれで終わりか?」
臨堂の長話にうんざりした勇が、ようやく口を開く。
「ククッ。まーザコにはオレ様の実力を見抜く力もねーか!」
「いー加減にしてよ、しゃべりすぎ。充電なくなるから早く終わらせて。」
「わーったよ。」
勇と同じく長話に飽き飽きした八木がけしかけると臨堂はようやく動き出すが、それでも口数は減らなかった。
「わからせてやるよ、実力の差ってヤツをな。今日のことを一生後悔…。」
ガンッ!
臨堂の顎先で何かが弾けた。
「あん?…なんだ?蚊か?」
「?」
当の本人である臨堂はおろか、側から見ていた八木ですら何が起きたか理解できなかった。臨堂の顔に当たったのは、勇のパンチだった。速過ぎたのだ。
「実力のないヤツには分からないだろうな。」
「こんのヤロー!」
挑発にキレた臨堂が殴りかかる。勇の顔面に右のパンチ。勇はそれを避けると同時にその手首を掴むと外側に引っ張りながら背後に回り、もう一方の手で臨堂の肩を後ろから抑えた。
バキバキッ!
少し乾いた気色悪い音と共に、臨堂の腕があり得ない方向に曲がる。勇は一切の躊躇なく、臨堂の肩を壊した。
「うあああ!肩が!!肩があぁぁっ!」
「お前も来い。」
のたうち回る臨堂には目もくれず、勇は動画を撮影する八木の方を向いて言った。
「カタつけてやる。」