漫画『復讐の毒鼓』 ネタバレ小説ブログ

マンガ「復讐の毒鼓」のネタバレを、小説という形でご紹介させていただいているブログです。

復讐の毒鼓 第14話

 内村はただ黙って2人の喧嘩を見ていた。今この場で彼にできることなど、何もなかった。

「何やってんだ内村!2人でやりゃこんなカス…。」

「いや、無理だと思う。」

 勇の強さを身を以って知る内村である。自分が加勢したところで太刀打ちできる相手ではない。しかしまだ現実を受け入れられないでいる南原には、そんな判断など到底できなかった。

「なんだと?」

 内村の方へ向いた途端にまたビンタ。

「くっ…。張り手しかできねぇ卑怯者が!正々堂々拳できやがれ!」

 もう理屈も糞もない。

(奴は張り手だけ練習しまくったに違いねぇ。でなきゃ俺がやられるわけ…。)

 自分が"神山"なんぞに後れを取るはずがない。南原の頭の中はとにかくその一点のみだった。

「張り手が卑怯?普通張り手より拳を食らいたがらないはずなんだが。頭悪いな。」

 もはや哀れみすら感じる。勇は思わず南原に背を向けた。南原はその隙を見逃さなかった。背を見せたその男の頭目掛けて全力で拳を振るう。

 当たった…と思った。だが少し感触が違う。見ると、拳の先にあるのは頭ではなく手だった。パンチを止められたのだ。

 南原の背中に冷たいものが流れた。完全に隙を突いたはず。こんなことがあり得るのか…。もはや南原はパニックに陥っていた。何一つ通用しない。手も足も出ないとは、このことである。南原は勇の渾身のビンタに、なすすべなく倒れた。

(い…痛ってー。なんだこのダメージ。)

 南原は痛みと混乱で、手足の動かし方すら忘れたような感覚に襲われた。勇は倒れた南原の顔を踏みつけ、言った。

「山崎に謝れ。」

「す…すまなかっ…。」

「山崎は?」

「山崎…すまなか…った。」

 見ているだけでも痛々しい。しかし内村は、これを見ていて思い出した。これが、今まで自分達がパシリにしてきたことだ…。

「立て。チャンスをやる。」

 内村が南原を抱えて立たせる。南原が立つと勇は、ナンバーズを潰すつもりでいることを話し始めた。

「各クラスに2〜3人。各学年15クラスの総勢130人余り。その内親衛隊は20人。」

 本来、パシリなら知るはずのない情報だ。南原は思わず内村を見る。

「…仕方ねぇだろ。」

 内村は視線を泳がせながらそう言うほかなかった。そんな2人に構わず勇は続ける。

「130人を同時に相手するつもりはない。まずは親衛隊一人ひとりの実力を把握する必要がある。そこで、お前らには将棋のコマになってもらう。」

 早乙女は固いガードに囲まれた、いわば"王"である。ナンバーズを潰すには早乙女の首を獲るしかないと勇は考えた。しかし、散々叩きのめされた挙げ句にコマ使いと言われては南原も黙っていられない。

「それで俺らをコマにするだと?ふざけんな!」

「嫌ならかかって来い。何度でも潰してやる。」

 ぐうの音も出ない。たった今、完膚なきまでにやられたばかりである。暫くの沈黙の後、南原が口を開いた。

「て…テメェ独りでナンバーズを潰すだと?」

「そうだ。」

「無理だ!俺に勝ったからって…。親衛隊の強さはハンパじゃねぇんだ!」

 身の程を弁えろとばかりに無謀さを訴える南原だったが、勇は飄々としたものだ。

「それは、親衛隊に勝てば俺に従うという意味に聞こえるが。」

(かかった。バカめ…。)

 南原は、勇では親衛隊には勝てないと踏んでいた。親衛隊員の誰かとぶつければ、コイツは潰される。今日やられた借りだって返せる。

「ああ、親衛隊に勝てば従ってやる。」

 胸の内はともかく、そう答えた。

「いいだろう。親衛隊の誰だ?」

「3組番長、近江清十郎。」

 トントン拍子で話が進んでいく横で、内村一人が焦っていた。

「バカ野郎!親衛隊巻き込んだのバレたら殺されるぞ!」

「バレなきゃいいんだ。」

 2人のやりとりをよそに、勇は泰然とかまえている。

「時間と場所は任せる。」

 単純で頭が悪い奴らだが、その分話はスムーズに進む。勇はこの2人の単純さを、かえって好都合と感じていた。

 


 警察署。取調室のイスに座る加藤の前に紙の束が置かれた。

「お前が送った脅迫メッセージ。それと…同級生の陳述書だ。何か言いたいことはあるか?」

「あ…あれは…ただのイタズラで…。」

「イタズラ?」

 倉田の圧力にたじろぎながらも答える。

「は…反省しています。本当です。葬式の手伝いに行くつもりだったんです。」

「ほぉ?じゃあ山崎を殴った理由はなんだ?」

 尋問の刃が加藤を襲う。倉田は机を拳で叩いた。

「陳述書読んでみやがれ!」

 加藤が言われるままに陳述書を読むとそこに一つ、山崎へ振るった暴力についての詳細な内容が書かれているものがあった。

(か…神山の奴…。あいつが書いたんだ。)

「山崎の遺族に司法解剖頼んでこい。」

 倉田が若手刑事に指示した。

「陳述書に、どこをどう殴ったか詳しく書いてある。照らし合わせてみないとな。」

 これを聞いて冷や汗が止まらない加藤の肩に手を置き、倉田はさらに追い討ちをかけた。

「反省だと?笑わせんな。俺はテメェらみたいなのが更生するなんざ、これっぽっちも信じちゃいねぇ。捜査が終わればテメェは負け犬だ。・・・一生な。」

 

 

復讐の毒鼓 1 (ヒューコミックス)

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