復讐の毒鼓 第17話
「ちょっと、シュウ!」
唐突に現れた江上に戸惑っている勇を指差し、江上が言った。
「部室に来てって言ったじゃない。」
「あ…色々あってね。」
どうやら勇は、江上に部室へ呼ばれていたのを忘れていたようだ。だが江上は、勇が忘れていたことをそれ程気には留めていないようだった。
「ったく。傘持ってる?」
「いや。」
「じゃ、一緒に帰ろ?私持ってるから。」
「えっ?」
突然現れたかと思えば、話は完全に江上のペースである。
「今日はちょっと用事が…。」
少々たじろぎながらそう答える勇の後ろで、内村と南原が顔を見合わせる。そんな2人にも江上は容赦なく切り込んでいった。
「あなたたち!シュウにまた変なことするんじゃないわよね!?」
「えっ?ち…違いますよ。」
内村がしどろもどろに答える。この後のこともあり、これ以上ペースを乱されたくない勇はしれっとその場を去ろうとするが、またも呼び止められた。
「明日は部室に来てね。見て欲しいものがあるの。」
「あ…分かった。」
ようやく教室を後にする3人の後ろ姿を、江上は暫く腕組みをしながら訝しげに見つめていた。
「俺の部活、何だった?」
階段を降りながら2人に訊いてみる。明日こそは行っておかないと江上がうるさそうなのだが、勇は秀が何の部活に所属していたか知らなかったのだ。
「えっと…。」
「文芸部だったっけ?」
「そうだ、文芸部。」
少し時間はかかったが、なんとか思い出せた。
「部室はどこだ?」
当然、勇が部室の場所など知るはずもない。別館の3階にあることを内村が教えた。
「来た。」
公園のベンチに傘を差して座る遠藤の元へ3人が現れた。真ん中にいるのが"神山"。気後れする様子など微塵もなく、堂々としたものだ。遠藤の言う"場所決め"が徒労に終わりそうだ。
(全然怖気付いてねぇじゃん…。)
「お前が遠藤か?雨も降ってる。さっさと済ませよう。」
遠藤の心の内など知ったことではない勇は、早速ふっかけた。ナメた物言いで相手が取り乱しでもしてくれれば、その分ラクして早く終わらせられる。そんな狙いもあったのだが、さすがにそこまで簡単な相手ではなかったようだ。
「カーッハッハッハ!パンピーに先にやらせてやるぜ。来い!」
遠藤はニヤニヤ笑いながら言った。黙って様子を見る勇に、更に挑発が続く。
「んだ〜?まさかビビっちまったのか?」
遠藤はつかつかと勇に向かって歩きながら、更に煽った。
「あいつらに勝てたことがそんなに嬉しいか?俺にゃあんな奴ら、何十人相手しようといつだって勝てんだよ。」
思わず身をすくめる内村と南原。耳が痛い。遠藤はなおも続けた。
「ザコに勝ったくらいで舞い上がってんだろ?お前は今、自分が強くなったと錯覚してる。だがここまでだな。お前は俺という壁にぶち当たった…。」
「お前は口喧嘩しに来たのか?」
遠藤の長話にうんざりしたかのように、勇がようやく口を開いた。舌戦では勇に軍配が上がったようだ。
「カハッ!こりゃ完全にイっちまってるわ。」
そう言うと遠藤は勇の鼻先に蹴りを寸止めした。
「ヘシ折ってやるぜ、その自信。」
さすがの勇も、口先だけの男ではないと判断した。しかしこの男はよく喋る。
「どうだ。速すぎて動くこともできねぇか?」
「お前は少し真面目にやってやる。」
そう言って勇は、泰山高校に潜入して以来初めて構えをとった。
「真面目だぁ!?何しようが力の差を感じて絶望するだけだせ。こんな風にな!」
そう言い終わるや否や、遠藤の左カカトが勇の頭を襲う。ガードする勇。しかしその直後、逆立ちのような格好からの右の蹴りが勇のガードの隙間に滑り込んだ。以前、親衛隊選抜の際、近江に浴びせた技だ。勇の顔が跳ね上がり、後ずさる。それを見て目を丸くする内村の隣では、南原がガッツポーズをしていた。