復讐の毒鼓 第26話
在木と前園は公園の地面に倒れ、気絶している。勇はそんな2人を尻目に、自分の通学カバンについた砂を払っていた。
「行こう。」
勇の戦いぶりを改めて目の当たりにして硬直する2人を、事も無げに促す。勇の言葉を聞いた途端に南原がさらに苦悩の表情を浮かべた。
「どうした?」
「えっ?お…俺…お前に砂を…。」
「強要されたんだろ?」
「それは…。」
自責の念から言葉を詰まらせる南原にも何事もなかったような勇の話ぶりに、思わず内村も口を開く。
「お前のこと、う…裏切ったんだぞ?」
「あれくらいなんでもない。気にするな。」
そう言ってさっさと歩いていく。南原は一瞬内村の方を見遣ると、そんな勇の目の前まで走っていった。
「何だ?」
「わ…悪かった!」
「何が?」
心底不思議そうに勇が聞き返すと、南原の方も拍子抜けしてしまう。しかしきっちりとケジメをつけるためにも、ここで引き下がるわけにはいかない。
「あ…いや、ただ謝りたかった。マジでお前の味方になるよ。」
その言葉に勇は少し微笑むと、南原の肩を軽く叩いた。
「あの2人どうする?」
「死んじゃいない。ほっとけ。」
「お…俺もいくよ。」
2人のやりとりに慌てて内村もついていく。
"許し"は人の心を掴む。そう、ただ"脅し"て"従わせる"のとは、まるで異質の関係が構築される…。
「なに?」
話しかけた江上の方など見向きもせずに、木下千佳子は見るからに不機嫌そうに聞き返す。
「えっ?あ…ぶ…文芸部の卒業作品のことで…。」
「それ言うためにさっきから私の周りウロウロしてたわけ?」
「う…ん。」
なんとか仲良くなって暗証番号への糸口を見つけたいのだが、取り付く島もない。
「じゃあメモって。
"夜間自習 クソでも食らえ 帰らせろ"
題名は"夜間自習"。これで提出するよ。」
「あ…これだと、困る…んだけど…。」
木下は江上を睨みつける。
「あんた。また私の前でウロチョロしてたら、タダじゃおかないよ。なに?文句でもあんの?」
ナンバーズ女子副会長に凄まれると、さすがの江上も敵わない。
「謹慎中で大人しくしてるだけ。夜間自習に顔出したくらいで馴れ馴れしくしないでくれる?」
「ご…ごめん。」
「さっさと失せな。」
近江はすっかり暗くなった夜の公園を、焦燥感に駆り立てられながら足早に歩いていた。在木達の暴走を止めるためだ。公園の敷地に入って少し行くと、勇が南原達を連れて歩くのを見つけた。
「近江…どうしてここに?」
「ん?終わったのか?…普通だな。」
恐る恐る聞く南原をよそに、勇がほとんど無傷なことに違和感を覚える。あの在木とやったはず。いや、接触がなかったのだろうか…。思案していると、勇が早速吹っかける。
「加勢か?相手になるぜ。」
「そんなんじゃない。在木と前園は?」
「まだあっちに…。」
南原が答える。
「何事もなかったのか?」
「あいつらに伝えろ。お袋さんには階段でこけたことにしとけってな。」
「?」
困惑した顔の近江に、勇はさらに付け足した。
「言えばわかる。気絶してて言えなかった。」
「気絶?お前が?…まさか、在木が…?」
近江の頬を冷たい汗が伝う。
近江が小道の脇の草木をかき分けていくと、その向こうには人が2人倒れていた。
「おい!しっかりしろ!どういうことだ!?」
すぐさま駆け寄り、声を掛ける。
「うぅ…背中が…きゅ…救急車…。」
「神山か?」
勇は自宅に戻ると早速壁に情報をまとめる。まずは"在木八千流"の名にバツを打った。
親衛隊2名クリア 骨折で入院不可避
3週以内の復帰は無し
今後の予想は2通り
①他の親衛隊が登場する
②在木が沈黙する
江上百々と木下千佳子… もし親衛隊に動きがなければ、ターゲットは木下 組織の会計だから、一気に不良どもを釣ることができる——が、もしそうなった場合、多数を相手にする危険性あり ベストは親衛隊が今まで通り秘密裏に動くこと…