復讐の毒鼓 第16話
「放課後ついてこい。」
南原は放課後、例の公園に勇を連れて行くための通達をした。
「近江か?」
「いや…遠藤剛。1組の番長だ。」
「そいつも親衛隊か?」
「違うが親衛隊レベルの実力者だ。」
1年生会員のスカウトも終わった今年の4月中旬、親衛隊の選抜があった。
ーー屋上。タバコを吸いながら悠然と座り、観戦する両脇には右山と佐川が立っていた。早乙女の視線の先で戦っているのは近江と遠藤。実力は伯仲していた。
「互角ですね。2人とも親衛隊としても遜色ない…。」
早乙女は冷静に戦局を見つめる。その先で2人が吠えた。
「おらぁ!」
「来い!」
咆哮と共に遠藤が近江に向かって突進する。そして飛び上がると、反時計回りに体を回転させた。回転の力が乗った左足が近江の頭に襲いかかる。近江は懸命にガードした。ところが次の瞬間、ガードの隙間を通った遠藤の右足が近江の顔面を捉えた。初撃を防がれるのは、遠藤にとって織り込み済みだったのだ。蹴りを喰らって崩れた体勢の近江を、パンチを連打して追い込む遠藤。連打の一つが顔面にキレイに入ったため、近江は更に体勢を崩した。トドメとばかりに遠藤が振りかぶったその時。
「お…俺の負けだ…。」
近江の言葉に遠藤が手を止めた。
「…いい勝負だったぜ。」
「ああ…。お前も凄かったよ。」
「それじゃあ親衛隊の最後のメンバー、20位は…。」
「ストップ。」
勝負の結果を見た右山が選抜の結果発表をしようとしたのを、早乙女が制した。
「私が発表します。親衛隊20位は、近江清十郎君。」
早乙女のこの言葉に一同静まり返った。それもそのはず、その場にいる全員がこの戦いの勝者が20位に収まると思っていた。その想いが一番強かったのは当の本人である遠藤だ。選抜結果の発表を終え、さっさと屋上を後にする早乙女達に遠藤は食い下がった。
「な…なぜです?俺が勝ったはずですが…。お…俺が勝ったんだ。なんでなんすか…!教えて下さい、早乙女さん!」
「聞いてもいいか?」
階段を降りる途中で右山が訊く。
「なぜ近江かって?」
「ああ。」
「遠藤君は…派手過ぎる。それが理由です。」
公園のベンチに座り勇の到着を待つ遠藤の太腿に、ポツポツと雨粒が落ちてくる。
「降り出したな。」
隣に座る連れの男が呟いた。
「ちょうどいい。1年前と同じだ。」
「つーか謹慎中だぜ?会長にバレたら俺ら殺されるぞ?」
連れの男は一応謹慎を気にしていた。それにもし、万が一の事でもあったら…。しかし遠藤はそんな連れの心配を軽くあしらう。
「ビビってんなら帰れ。」
「いや…別にそういう意味じゃ…。」
遠藤には心に期するものがあった。選抜で近江に勝ったにも関わらず親衛隊入りを逃した。だからこそ、近江が絡む件に関しては何だってする覚悟でいたのだ。
「行くぞ。」
放課後になった今、教室では勇を公園に連れて行くために南原が声を掛けた。だが勇は南原を倒した際にした話を忘れない。
「その前に約束しろ。」
「約束?」
「親衛隊レベルの遠藤に勝ったら俺の言うことを聞くこと。」
「はっ!わかってるよ。」
南原は勇の念押しに面倒臭そうに答える。
「行こう。」
勇がそう言って教室の扉を開けると、その向こうには江上百々が立っていた。