復讐の毒鼓 第35話
「まだですか?」
「もうすぐ来るはずだ。」
決戦の場に一足先に着いていた早乙女は、まだ到着しない相手方に少々焦れていた。仲介役の大道寺が軽くなだめると同時にバイクのエンジン音が近づいてくる。
「おー、お出ましだ。」
相対する両陣営。早乙女が早速口を開いた。
「毒鼓ってのは誰ですか。」
「毒鼓?ここには来てないね。」
「レベル低くて付き合ってらんねーってよ。」
愛と仁が口々に答え、挑発する。だが早乙女の目的はあくまで"毒鼓"だった。
「毒鼓と戦うためにこの場を設けたんです。子分達に用事はありません。」
「あー?なんだと?子分?女みてーなツラして言ってくれんじゃんよ。」
「呆れて言葉も出ません。」
突っかかる仁を相手にしようともしない早乙女をなんとか戦わせようと試みる大道寺だったが、それが逆に彼の逆鱗に触れた。
「でもよー、言っても2対3だし、アンタ等のが有利っしょー。」
「笑わせるな!虫ケラ達と遊んでる時間はありません。私達が負けたことにするのでお帰りください。行きましょう。」
「あん?このまま帰んのかよ。」
大道寺の問いには目もくれず、右山と佐川を連れて帰ろうとする。だがこの程度では引き下がらない仁が舌戦に持ち込んだ。
「ビビって逃げるヤツ等のケツ拝んでどーしろっつーんだ。」
「あんだと!?」
「言わせておけばいい。口ばっかりで強がっていきがってるヤツ等なんですよ。」
挑発に素直に反応した佐川をなだめる早乙女の言葉に、今度は仁が突っかかる。
「あ?なんつった?」
「自分の立場をわからせてあげた方がよさそうですね。右山。」
「ああ、そうだな。」
勇は自宅の部屋の壁書きの前で筋トレに励んでいた。今後の戦い、そして来るべき最終決戦に向け、でき得る限り鍛え抜いた体に仕上げる。
「ふぅ。」
一息つくと、再び壁に新たな情報を書き加えていった。
陣内幸六、列七雄× 下のレベルから順に会っているとなると、次のターゲットは15位
内村、南原—負傷 近江清十郎—味方
(1人1人攻める必要はない。徹底的に潰すべき上のランクのヤツらに早く会わなくては。)
ピンポーン
壁書きをしているとインターホンの音が鳴る。一応身なりを整えて出ると、玄関先には近江が立っていた。
「どうしてここがわかった?」
1年前、自宅で両親と共に(勇は出かけていた)誕生日パーティをしている最中に、あの集団リンチの場に秀を連れ出したのは近江と遠藤だったのだ。
「去年遠藤と迎えに来ただろ。」
「ナンバーズ全員がうちを知ってるのか?」
「まさか。芸能人の家でもあるまいし。」
「…なんの用だ?」
「次の計画立てないとだろ。入っていいか?」
勇は近江に壁書きを見せたくなかった。リビングにも、まだ誰にも知られるべきでない情報がある。
「出かけよう。」
肩を軽く叩くと、勇は近江を連れて自宅を後にした。
右山の重量級のパンチが仁の顔面を襲う。だが仁はそれを片手で軽々と掴んでみせた。右山が手を引こうとしても、仁がそれを掴んで離さない。仁は太々しい笑顔で挑発した。
「なんだよ。俺っちの立場教えてくれるんじゃなかったのかよ。」
少々意外な展開に、早乙女の顔色が少し変わる。
「右山のパンチを握力で握って制している…?」
「ただのザコじゃなかったようだな。」
「うああっ!」
右山は一声吠えると、渾身の力で自分の手を掴む仁の手を振り払った。仁は余裕の表情を崩さない。
「なかなかやるじゃんか。」