復讐の毒鼓 第38話
「お前は大体どれ位のレベルだと思ってる?」
勇は、近江が本気で戦った時どのレベルまで通用するかを聞いた。自軍の戦力を把握するのは重要だ。
「12位。」
「12位か。ってことは15位とも張り合えるってことか?」
「あぁ。たぶんな。」
そもそもナンバーズ加入も強制されてのことで乗り気ではなかったため、親衛隊の選抜でも本気で戦ってはいなかった。勇は近江のこの返答を聞いて、考えが浮かんだようだ。
「じゃあこうしてる場合じゃない。もっとおびき出そう。」
「え?」
近江の顔に困惑の色が浮かぶ。
「12、13、14、15位。この辺の連中を一気に3〜4人呼び出して、1人はお前が、残りは俺がやる。」
「リスクがでかそうだが…仲間はいるのか?」
「あぁ。でも世話になるつもりはない。」
勇は私的な復讐に親友を巻き込み、危険な目にあわせたくなかったのだ。
「誰なんだ?名前だけでも教えてくれよ。」
「雷藤 仁。」
仁の右拳が佐川の左脇腹にめり込む。佐川は明らかな苦悶の表情を浮かべた。
「コイツッ…拳が…。」
佐川がダメージで怯んだ隙をついて、仁はもう一発佐川の左脇腹へ渾身のパンチを放った。
「ゴフッ!」
佐川の表情がさらに歪む。しかし二度にわたるこの強烈なボディブローにたたらを踏みながらも、佐川は倒れなかった。
(急所に入ったハズなのに倒れない…!)
「こんなもんか?まだまだだろ?」
額に脂汗を浮かべながらも、佐川の闘志は衰えていなかった。
仁は元々レスリングの一流選手だった。それも全国大会で優勝するほどの。その鍛え抜かれた体から放たれるパンチで、倒れない者を見たことが殆どなかった。
(コイツ…なんなんだ?)
「ボーッと考え事してるヒマあんのか!?」
仁が狼狽えている隙をついて、佐川がタックルをする。そのまま仁の腰を抱えると体ごと投げ飛ばした。仁は空中で身を翻してなんとか着地をする。しかしその時既に佐川のパンチが眼前に迫っていた。
バゴッ!
辛うじてガードした仁だったが、そのパンチの勢いで体が一瞬宙に浮いてしまった。
(体が宙に浮いた!終わった!)
バキッ!
絶好のチャンスを見逃さない佐川は、仁の顔へ渾身のパンチを放った。当たった。かに見えた。が、防がれた。仁の目がギラリと光る。仁はパンチを打った佐川の手首を掴むと、そのまま背負い投げの体勢に入った。だが投げようとした刹那、もう一方の手で掴んでいた佐川の上着の袖が破れて投げは失敗に終わる。
「悪くない攻撃だ。さすがの俺でもちょっと慌てたぜ。」
「あー?何様のつもりだテメーはー。」
時を追うごとに急速に熱を帯びていく2人の戦いを、早乙女と右山も真剣に見つめる。
「思ってたより手強いな。」
「素人じゃなさそうですね。ムダな動きがなにひとつない。何か習ってたがそれを隠しているか、途中でやめたかどちらかです。」
早乙女のこの言葉に、右山はにわかな懸念を抱いた。
「まさか…佐川が負けたりしないよな…?」
「負けはしないが勝つのは難しいでしょう。アイツがあの戦い方をやめないうちは…。」
「オルァ!」
咆哮と共に両者が手を掴み、押し合う。崩れない戦局の均衡に業を煮やした早乙女が動いた。
「もういいです。ここからは私が。」
「早乙女!もう少し待ってろ!あと少しだからっ…。」
「あと少しとは?」
「3分だけ待ってくれ。」
「わかりました。」
この二人のやりとりで、仁の闘志に火がついた。
「俺っちも舐められたもんだぜ。」
突如、佐川が仁と組んでいた手を放す。
(コイツ…やけになったか…?)
そう思った仁だったが、佐川は放した手で仁の脚に組みついた。
「おりゃあぁぁぁ!」
そのまま全力で押し倒す。
「あっ、あれは…!」
佐川がただ押し倒しただけではないことに、右山は気付いた。仁の鳩尾辺りに腰を下ろしている佐川はその右膝で仁の左手を抑え、左手では仁の右手首を掴んでいた。成り行きを見ていた早乙女が呟く。
「ゲームオーバー。」