復讐の毒鼓 第84話
「アイツは…この前俺がヤッたヤツ…。」
仁の登場に佐川が顔色を変える傍らで、早乙女はその招かれざる客を早急に片付けるために武器を取るよう全員に指示した。皆思い思いの武器を取る中、右山が一同の動きを一旦制した。
「ちょっと待ってくれ。」
「どうしました?」
「アイツは俺に任せてくれ。今回は最初からレスリング技でぶっ潰す…。」
以前大道寺に場を設けてもらった時の喧嘩では、佐川の横槍に助けられた。右山としてはこれ以上ない、雪辱を果たす機会である。早乙女は快く右山の意思を汲んだ。
「分かりました。任せましたよ。」
「当然だ。」
その雪辱を果たすべき憎き相手は、這いつくばる勇を介護でもするかのように優しく立たせると耳元で一言呟いた。
「女の子たちは無事だから、心配いらねーぞー。休んでな。俺っちが時間稼ぎしてるからよー。」
「かかってこい!」
右山の吠え声が戦いの火蓋を切った。ぶつかり合う2人。互いに相手のベルトを掴む。右山はそのまま投げを打とうと手に力を込めた。
(俺の全力で…持ち上がらない…?)
右山は先程の言葉通り、全力で仁を潰しにかかった。始めからレスリング技で攻めれば負けるはずがない。しかし右山の手に伝わる仁の身体の感覚は、まるで巨大な岩のようなものだった。どれ程力を込めようと、ピクリとも動かない。その感覚は彼の自信と尊厳を根底から崩壊させた。
仁がその手に力を込める。右山の巨体は軽々と持ち上がった。浮き上がった右山の身体をうつ伏せの状態で地面に叩きつける。そしてすぐに腰に膝を乗せ、後頭部の髪を掴むと顔を何度も地面に叩きつけた。
「やめ…も…やめ…。」
右山の顔は瞬く間に血で赤く染まっていった。激痛にもがきながら、歯の折れた口からやっとの想いで懇願の言葉が漏れ出す。だが仁の猛攻は止まらない。
「まだまだ…だろっ!」
仁は一層強く、彼の顔を地面に叩きつけた。
「デリバリーやってるから土地勘はあってね。これからすぐ行きます。」
木下からの連絡を受けた愛は現場への道すがら、浜田ジョーに電話をした。
「もしもし、ジョー?うん、こないだ早乙女が勇のこと嗅ぎ回ってる時知らんぷりしろって言ったよね?」
『あぁ、あの時か。みんな黙ってたのに、番外がなんか怪しかったんだよな。アイツ、ガキの頃勇に殴られてたから根に持ってんのかもな。』
「そうなんだー。僕の友達のこと知ってるよね?」
『どの友達?』
「よくつるんでた「退学組」の——。」
『ああ、あいつらなー。知ってる。』
「ちょっと集めてくんない?急用ができてさ。」
旧友の応援要請に、ジョーも乗り気になる。
『どんとこい!んで、どこ?俺も行くわ。』
愛としても、快く協力してくれようとするジョーの気持ちは嬉しかった。だが愛はジョー本人の協力を仰ぐために電話をした訳ではなかった。
「いいよ。退学組のことは退学組でなんとかするから。」
『そんな寂しいこと言うなよ。』
「この件…在学組が絡んだら退学になるレベルだ。だから外れてて。場所は…。」
旧友を気遣う愛のバイクは、降りしきる雨の夜道を修羅場に向かって駆けていく。
「行け!ぶっ潰せ!」
右山を潰された早乙女が鬼の形相で発した命令で、泰山の男達が一斉に仁に向かっていく。
「かかって来いやぁ!」
鬨の声を上げながら押し寄せる大軍に、仁は1人立ち向かった。仁が手近な者から殴っていくと、瞬く間に数人が吹っ飛んだ。仁は己を鼓舞するかのような雄叫びを上げた。
「俺っちが…天下の雷藤仁様だゴルァアア!」