漫画『復讐の毒鼓』 ネタバレ小説ブログ

マンガ「復讐の毒鼓」のネタバレを、小説という形でご紹介させていただいているブログです。

復讐の毒鼓 第83話

「3年の番だな。息の根止めてやるよ。」

 2年生達の番が終わり、いきり立つ3年生達。しかしその3年生達に命を下す前に、早乙女は意にそぐわなかった者の名を呼んだ。

「その前に…南原光良。内村清隆。」

「はい!」

 2人は口を揃え、慌てて返事をする。早乙女は彼らを問い詰めた。

「2年が順番に10発ずつ殴る時、南原は適当に殴るフリをし、内村は指一本触れませんでしたね。」

「ぼ…僕は…殴りました。」

「そ…その…立ってればいいのかな…と思って…。」

「そうですか?見てませんでした。やり直しです。」

 なんとか言い逃れをしてやり過ごそうとする2人だったが、やはり早乙女の目は誤魔化せない。やり直しの命令を聞いて思わず俯く2人を、早乙女が放置するはずがなかった。

「六田。」

「ん?」

「あの2人、片付けて下さい。」

「くだらないことはもうやめろ。」

 六田が内村達の前に立とうとしたその時、勇は蹲ったまま声を上げた。

「やめろ…。俺だけ…俺だけやればいいだろ…。」

「他人の心配してる暇があったら、自分の心配でもしたらどうですか?」

 既にボロボロの勇をなおも冷酷にあしらう早乙女に、勇は今出来る精一杯の抗議をした。

「他人じゃねぇ…。仲間だ…。」

 南原は、勇のこの言葉に目頭が熱くなるのを感じた。そしてそれは、内村も同じだった。2人にとって、最初の接触は最悪だった。喧嘩で完膚なきまでに叩きのめされ、脅されて始まった関係だった。だが、それ以降はどうだったか。勇は2人を見下したり踏みにじるような真似は、一切しなかった。裏切りを許してくれたことさえあった。最初こそ自分を屈服させた憎き相手だったが、行動を共にするうちに人柄というのは見えてくるものだ。勇は普段、どちらかというと淡白な方だ。だが、情には厚い。そして何より、強大な力にも屈することなく立ち向かう熱い心の持ち主だ。それはさながら、自分達が幼い頃に憧れたヒーロー像そのものだった。2人はそんな勇の人柄に惚れたのだ。いくら早乙女にやり直すように言われようとも、今の2人に勇を殴ることなど出来るはずがなかった。だがそんな2人の熱い想いも、荒み切った早乙女の心には微塵も響かなかった。

「これはこれは、お涙頂戴の感動モノですね。あと5分ですよ。早く選ばないと。」

「…。」

「六田。何してるんですか?」

「神山大二郎は…!」

 早乙女が再び六田をけしかけたその時、勇が意を決したように大声を上げた。

「ま…負け犬だ…。は…母親は…ば…ばい…。」

 血が滲むほど力強く握り込んだ手が震える。言葉が詰まる。その続きの言葉を、勇はどうしても口にすることができなかった。言えるはずがない。自分を産み、ここまで育ててくれた親を侮辱する言葉など…。勇は握り込んだ拳をそのまま地面についた。

「わ…悪かった…。俺が悪かった…。」

「本当にそう思うなら、母親は売女だって言いなさい。そしたら許してやりますよ。」

「オルァ!このクソ共がぁ‼︎」

 早乙女がこの世のものとは思えないほど歪み切った薄ら笑いを浮かべたその時、勇を取り囲む人だかりの向こうから凄まじい怒号が鳴り響いた。一同がその声に振り返る。そこには、鬼の形相で睨みつける仁の姿があった。

 


 近江はなんとか脱出する方法は無いかと、まだ屋上から下を見つめていた。そこへ江上を連れた愛が通りかかる。

「江上先輩!」

 囚われていたはずの江上がいた驚きも手伝って近江が大声で叫ぶと、2人は声が聞こえた方を見上げた。

 


「子ども同士の喧嘩に国家機関を動かすのもおかしな話でしょう。うちの息子にも非があるのは認めますが、父親だからでしょうか。気が進まなくてね。」

「…と言うと?」

 早乙女の父親の言質をはかりかねて水谷が訊くと、父親は今のこの状況において信じ難い言葉を口にした。

「息子はうちでしっかり叱って教育するので、この辺でやめときませんか?」

「どうせ未成年ですし、大したことないはずですよ、先輩。」

 父親を庇うような中森の言葉に対し、水谷は冷淡に言い放った。

「私は神山秀殺害の主犯格として刑事起訴するつもりですが。」

「まだ言うかね…。いつまでもそんなこと言ってると、この事件の担当を外れてもらうしかなさそうだな。」

「なるほど…。この話し合いも裏取引ですね、結局は。」

 水谷は心底辟易したように目を伏せると、溜め息のように一言呟いた。その溜め息に、中森が血相を変えた。

「これ、水谷君!何を言うか…。裏取引だなんて!」

「ハハハ。まだ新人だから分からないでしょうが、これからこんなことは腐る程あります。君も経歴に傷がつくのは嫌でしょう。私が何を言ってるか、分かりますね?」

 これは脅しだった。一本気に悪と戦おうとする水谷に法のグレーゾーンが人脈、経験を振りかざし、結局は力づくで抑えにかかったのだ。しかしこれに屈するほど水谷は甘くはない。彼女は先程テーブルに置いた携帯を裏返し、静かに言った。

お言葉ですが…経歴に傷がつくのはお2人の方かと。」

「…!」

 露わになったその携帯の画面には、マイクの画像が大きく映し出されている。それは、ボイスレコーダーが起動していることを示していた。この部屋に入ってから話された会話を、水谷は全て録音していたのだ。

「私には後ろ盾がありませんので、お2人の名誉を担保にさせていただきます。それでは…私はこれで。」

 


 愛は江上に続き、近江と遠藤を救出した。

「この人達…信じてもいー人達?」

 一時は人質にされていた江上を任せる以上、下手な者に任せる訳にはいかない。念の為に愛が確認すると、江上は黙って頷いた。愛は江上を信じ、近江に江上を託した。

「じゃあ悪いんだけど、家まで送ってくれますか?僕はこれから少し忙しくなりそうで。」

「あの…どちら様で…?」

 近江にしても、愛とは当然面識がない。自分を助けてくれた見知らぬ男である愛に尋ねると、愛は不可解な名を口にした。

「勇の友達。」

「勇?」

「あ、そっか。まだ知らないのか。学校では神山秀で通ってるヤツ。僕らの間では毒鼓って呼ばれてて有名だった。」

「毒…鼓?」

 この辺り一帯で最強の名を恣にした伝説の不良の名は、学区が違うとはいえ近江と遠藤もその武勇伝と共に強烈に記憶していた。しかし復学した、ただのパシリと思っていた男が、まさか伝説の不良だったとは…。2人はその名を聞いて、ただただ驚愕した。

 

 

復讐の毒鼓 6 (ヒューコミックス)

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