復讐の毒鼓 第69話
「でもなんで火曜から木曜の間なんだ?」
「天気予報によると、その日は雨。天気予報を信用してる訳じゃありませんが、3日連続で雨の予報です。1日くらい降るでしょう。」
神山の処刑日をその日に定めた理由を佐川が訊くと、早乙女はそう答えた。それを聞いた右山が昨年の事を思い出す。
「去年神山を潰した時も雨だったな、確か…。」
「ええ。雨だと人通りも少ないですし、見つかる可能性も減ります。」
「親衛隊に待機しろって連絡回すか?」
「とりあえず準備させておいて下さい。一条と五十嵐は神山と組んだふりをさせます。木下はもう聞いてると思いますが。」
「手当てのあれね。」
「ええ。江上百々もすぐにでも詰める予定でしたが、ひとまず待機。これから面白くなります。」
作戦の具体案の他に、早乙女には気になっていることがあった。
「それから…。神山の家を知ってる者は?去年連れてきたのは遠藤と近江でしたね。」
「ああ。」
そこまで確認すると、早速指示を出す。
「佐川は放課後、遠藤に待機するように伝えて下さい。」
「放課後?神山が家にいるのに行くつもりか?」
右山の問いにも、用意周到な早乙女の頭脳が光る。
「五十嵐が神山を引き止めておくので大丈夫です。どうしてもヤツの家に行って確認したいことがあるので。あぁ、それと、その他に追加で50万円入金するように。」
木下が了解の返事をする。校長はさらに蜘蛛の巣に絡め取られていく…。
その後すぐに遠藤の携帯に指示が届いた。
辺りがすっかり暗くなった頃、早乙女達の歩く先に遠藤が待機する。
「お疲れ様です、早乙女さん。」
「行きましょう。」
丁寧に挨拶をする遠藤を従え、早速神山家へ向かう。早乙女がタクシーで行く旨を伝えると、遠藤はすぐにタクシーを捕まえた。
「でもなんで急に神山んちに?」
佐川のこの問いに早乙女は答えなかったが、心の内でほくそ笑んでいた。
(秀になりすましてるヤツが勇だとしたら、秀は家にいるはず。面白くなるぞ。)
神山宅に着いた一行は、すぐに遠藤に呼び鈴を鳴らさせた。勇がいなければ在宅の者がいない為、当然誰も出てこない。さすがにそこまでの事情は知らない一行だったが、早乙女はドアの鍵穴の上に何やら電話番号らしきものが書いてあるのを見つけた。
「開いたは開いたけど、このカギじゃ危ないですよ。もっと良いのに変えた方がいいっすよ。」
早乙女はこの家の住人を装い、鍵屋を呼んで開けさせた。鍵屋は簡単に開けられたため、職業柄この家の脆弱性を指摘する。
「今両親が出かけているので、今度変えます。」
体の良い理由をつけて早乙女が金を払うと、鍵屋はすぐに去っていった。遠藤を見張りに立たせると、早乙女は右山・佐川を連れて早速家に侵入する。
「痕跡が残らないように、靴は脱いで下さい。」
リビングの壁に架けられた額が早乙女の目に留まる。勇が秀から貰った、漫画『総帥』のポスターだ。早乙女はその額が余程気になったのだろう。しばらくの間それを眺めていた。と、おもむろに額に手を掛けた。そしてゆっくりと外す。するとそこに現れたのは、父、母、秀、勇の4人が写った家族写真だった。
「神山秀が2人…?どうなってんだ?」
写真を見て混乱する佐川の横で薄ら笑いを浮かべていた早乙女の目に留まったのは、父親と思しき男の顔だった。
「…この顔…確かどこかで…。……!」
しばらく記憶の奥底を探っていた早乙女の脳裏に、昨年兄が事故を起こした時のことが蘇ってきた。
「うちの法律事務所総動員すれば揉み消せるだろ。示談金でも少しやっときゃ。」
事故について聞いた早乙女に、彼の父はそう告げていた。そばにあった事件のファイルらしき物を早乙女が手に取って開くと、そこには勇の父親の顔写真が載っていた。