復讐の毒鼓 第28話
「神山の奴…雷藤仁と相当親しいみたいっす。」
居酒屋の席で加藤は、早乙女達を前にするプレッシャーの中で恐る恐る話し出した。佐川が口を挟む。
「雷藤仁?誰それ?」
「自分…中学んときこっちに転校してきたんすけど、転校前の地元で番張ってた奴です。で、そいつと神山が結構仲良さそうに話してました。」
「他地域の不良と神山が親しい…それが何か?」
「はい?」
「それが私と何の関係が?」
「そ…それは…。」
例によって早乙女の口調が穏やかさを保ちつつにわかに殺気を帯びると、加藤は言葉を詰まらせた。すかさず佐川が怒鳴りつける。
「加藤ぉおお!てめぇそんなことで会長を呼び出したのか?ああ!?」
「ストップ。些細なことでも報告するその姿勢は高く買いますよ。ご苦労でした。」
いきり立つ佐川をなだめると、早乙女は穏やかな口調でそう言った。加藤はおずおずと頭を下げる。
「あ…ありがとうございます…。」
用事を済ませると加藤はすぐに店を出た。早乙女、右山、佐川が外で見送る。
「それじゃ、失礼します!」
加藤は見送りの3人に深々と頭を下げ、店を離れると大きく安堵の息を漏らした。
加藤の姿が見えなくなると、3人の間におぞましい空気が渦を巻いた。氷のような冷め切った目つきで早乙女が言う。
「右山。よろしく。」
「任せろ。」
すっかり日も落ち暗くなった街並みの中帰途に着く加藤の目の前に、突如巨体が現れた。
「み…右山さん?」
「会長は褒めてたけどな。」
「はい?」
「俺にはどうも納得いかなくてよ。」
「ど…どういう…?」
「大目にみてやるとすぐ調子に乗る輩がいるんだ。」
「え?」
と加藤が言うや否や、グチャッという鈍い音と共に加藤の顔が弾け飛ぶ。
「み…右山…さん…。」
突然の顔面パンチに蠢く加藤だったが、続く無慈悲な右山のパンチに彼の血と折れた歯がアスファルトに飛び散った。
「神山はほっといていいのか?」
佐川は居酒屋から帰る道すがら、早乙女に聞いた。
「謹慎にしといて私が先に動いては示しがつきませんし、それにあんなのは気にすることありません。」
「そりゃそうだけど…。」
「今は日曜の"対決"に集中してください。神山は復学したパンピー以外の何者でもありませんから。」
一方、病院では遠藤の素っ頓狂な声が響いていた。
「はああ?俺がやられたときは動かなかったくせに、在木がやられたら動くのかよ。」
「そうなるな。」
動じる様子のない近江の答えに、遠藤がさらにヘソを曲げる。
「在木と親友とは知らなかったぜ。親衛隊じゃねぇ俺はどうでもいいってか?」
「違うよ。」
「けっ、見舞いにも来んな。どうせ明日退院する。」
「よかったな。」
「これのどこがよかっただ。全治何週間だと思ってんだ。」
遠藤はギプスに固定された右手を挙げながら言う。先日の勇との喧嘩で、一番の負傷箇所だ。近江が急に真剣な眼差しを遠藤へ向ける。
「剛。」
「あ?」
「覚えてるか?俺たち、高校入ったとき不良を一掃しようって言ったこと。」
「世間知らずの中二病こじらせてたんだよ。」
物憂げな目で宙を見つめながら遠藤が答える。
——1年前…
バキッ!ドサッ。
近江は右山の強烈なパンチを食らい、廊下の壁に叩きつけられた。
「俺に目をつけられた以上、入会は義務だ。これ以上の抵抗は許さねぇ。」
右山の、巨大な岩がのしかかってくるような威圧感に、近江はただ俯いて従うしかなかった。
近江は遠藤を真っ直ぐに見据えて言った。
「無理やり入会させられて、やりたくもないことをやってきた。だが出来ることなら俺は、学校の不良を一掃したい。その気持ちに変わりはない。」
「正気の沙汰じゃねぇ!けどわからねぇな。神山とヤル必要がどこにある。」
「神山…1年前とは大分違っていた。それにナンバーズを潰すそうだ。」
「バカ!在木と前園に勝ったからなんだ。その次に"列"や"陣内"もいるんだぞ。あいつらにも勝てると思ってんのか?」
「だから俺がテストするんだ。どれほどの奴か…。」
「あきれて物も言えねぇ…。」
親衛隊16位の陣内幸六が自宅マンションの自室でくつろいでいると、彼の携帯が鳴った。すぐに電話に出る。
「ああ…どうした?」