漫画『復讐の毒鼓』 ネタバレ小説ブログ

マンガ「復讐の毒鼓」のネタバレを、小説という形でご紹介させていただいているブログです。

復讐の毒鼓 第9話

 勇は帰宅すると、部屋の壁に仕入れた情報をまとめた。

・内村清隆…取り込み/まだ不信

・江上百々…味方

・山崎  …ピンチ

・屋上は3年が使用/3年9組 右山道夫=副会長が管理

・不良は各クラス2〜3人

・情報は全て共有

・担任の佐藤は始業30秒〜1分前に到着する

 思いのほか、組織的な大所帯だ。1人にバレれば集団でやられるだろう。となると、1人ずつ潰していくのは難しい。今のところ内村には勇の脅しが効いているが、誰にでも通じる手ではない。

ーー何か方法を見つけねば…。

 


 翌日。勇は登校し、席につくと始業を待つ。いつもこれくらいの時間には来ているはずの、山崎の姿がないことが気にかかる。ふと加藤の席に目をやると、こちらもいない。だが加藤についてはいつものことだろう。

 佐藤が教室に入ると、1人の生徒が起立の号令をかける。始業の挨拶をしてから授業が始まる、ありふれた光景。だが今日の佐藤は、その挨拶を遮った。

「教師として挨拶される資格なんてないんだ、私は…。」

 どういうことか分からない。佐藤は、そんな生徒たちの困惑をよそに話を続ける。

「ちょうど一年前、悲しい事件が起きた。その被害者は、神山だった。その後神山は学校を休み、死んだという噂もあったが、最近ようやく復学してくれた!しかし…!」

 佐藤の口調が熱を帯びていく。

「また悲劇が起きてしまった。」

 佐藤がそう言ったとほぼ同時に、こちらに近づいてくるサイレンが聞こえた。

「警察!?」

「警察だ!」

「静かに!」

 どよめく教室を鎮める佐藤。そして目を伏せると彼は、信じ難い言葉を口にした。

「山崎が…死んだ。」

 勇は、全身を氷の刃で刺されるような感覚に襲われた。山崎の帰り際に、大丈夫だろうなどと軽く考えていたことを思い出す。

(俺(てめぇ)はバカか…。)

 佐藤は警察が事情聴取に来ていることを話し、出席番号順で3人ずつ、相談室の前で待機するよう生徒たちに指示した。

 


 その日の朝。出勤した佐藤は、山崎の訃報を受け、校長が自分に向かって発した言葉に耳を疑った。

「佐藤先生。今回のことでネットに変な書き込みしないよう、十分指導して下さいよ?」

「はい?」

 これほどまでに深刻な、校内の問題には言及しないのか?学校のために波風を立てるなと言う校長に、佐藤が食い付く。

「校長先生も今回の事件に、校内の不良グループが関わってること、ご存知じゃないですか。」

「言葉に気を付けて下さい。そんなのあるわけないでしょう?」

 これでは、1年前の神山の事件と何も変わらない。佐藤は持ち前の熱意と責任感で食い下がるも、その話は二度と聞きたくないと一喝され、取り付く島もなかった。

 


「警察?」

 3年生の教室の窓から様子を見ていた早乙女零は、訝しげな顔でポツリと一言だけ言った。側にいた佐川正夫も、事故かと顔を覗かせる。早乙女はしばしの沈黙の後、丁寧な口調で命じた。

「右山に屋上のカギ開けさせて下さい。"ナンバーズ"召集です。」

 不良たちの携帯が同時に鳴り出す。メッセージの一斉送信だ。外でタバコをふかしていた加藤も、画面を見て顔色が変わった。

 


 屋上に不良達がズラリと並ぶ。佐川が言うには、外でサボっていた者も集まっているとの事なので、全員揃っているようだ。

「よろしい。これから3週間"謹慎"とします。"パシリ"を含めて目立つ行動はナシです。」

 早乙女はそう全員に命令すると、加藤を呼んだ。

「警察が来たのは君のせいだそうですが。」

「そ…それが…パシリが1人、自殺を…。」

 神妙な面持ちで答える。だが早乙女は、そんな加藤に葬儀の手伝いに行くよう命じた。

「君が送った脅迫メッセージについて警察に聞かれるでしょう。ただのイタズラだった。苦しんでるとは思わなかった。反省している…と答えて下さい。」

「関係ないと言い張った方がいいんじゃないか?」

 佐川が口を挟む。しかし早乙女の法律に関する知識は半端なものではなかった。

「反省して手伝い役を買って出る…それが斟酌の材料になって、在宅起訴で済みます。」

「さ…裁判ですか?」

「裁判にはならないでしょう。死人に口なし。勝手に死んだので示談金も必要なし。」

 不安げな加藤に対しても淡々と答える。しかし、事が事だけに万が一もあり得るのではないか。佐川のそんな質問にも、早乙女の口調は変わらない。

「ずっと反省のフリしてればいい。執行猶予と若干の示談金で済むはずです。」

 あまりに詳しいので、佐川も素直に感心する。早乙女はさらに続けた。

「1年前に兄が交通事故を起こして人が死んだんです。それを処理するのを見て1つ、分かったことがあります。」

 今屋上に集まっているメンバーは、早乙女を除いて法律の知識など殆ど持ち合わせてはいないだろう。全員が次の言葉を待つ中、早乙女は静かに言った。

「この国の法律は、腐っている。」

 

 

復讐の毒鼓 1 (ヒューコミックス)

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