漫画『復讐の毒鼓』 ネタバレ小説ブログ

マンガ「復讐の毒鼓」のネタバレを、小説という形でご紹介させていただいているブログです。

復讐の毒鼓 第5話

「テメェみてぇな奴はよ、痛い目みなきゃわかんねぇ人間なんだ。だから俺が教育してあげてるわけ。」

 内村は勇の髪を鷲掴みにしながら見下したように言う。だが勇はそんな内村に、一つ提案をした。

「今その手を離せば、一発分減らしてやる。」

「は?誰が誰に?」

「俺がお前に。」

 


「百々ちゃん!」

 女子校舎の教室で江上は、慌てた声で自分を呼ぶ声に振り返った。クラスメイトが指差す方向には、山崎が申し訳なさそうに立っている。

 山崎にしても、この高校では男子が女子校舎に来るのが原則禁止であることくらいは理解している。

「あ…あの、先輩…。」

 山崎は、禁止事項を犯してまでここに来た用事をおずおずと話し始めた。

「か…神山君と、友達…ですか?」

「シュウ?」

 


 その少し前の時間、生徒達は食堂に集まり、給食を食べていた。

「あいつ今頃チビってるとこかな?」

「くくっ、這いつくばって泣きついてるとこだろう。」

 加藤と南原が楽しげに話していた。二人の真後ろで食事をしていた山崎には、その会話は丸聞こえだ。たった今勇は、内村から暴行を受けているのは間違いない。助けてあげたくても、自分にその力は無い。山崎はある事を思い出した。それは、自分がゲームパシリになったことを勇に話した時のことだ。勇に抱きつく程親しげなその女子生徒は、3年生だった。確か、『江上百々』と書いてあったか…。山崎は、自分ではどうすることもできないこの状況も、彼女ならどうにかできるかも知れないと思ったのだ。何より、早く勇を暴力から救ってあげたい。その一心で食堂を足早に去っていった。

 


「今何つった?死にてぇのか?」

 内村は、髪を掴んでいない左拳を勇に振るった。だが勇は、内村の右手首を掴むと、易々とそのパンチを躱す。そのまま手首を捻り上げた。

「予言を一つ。1分後、お前は俺に…命乞いする。」

 そう言いながら勇は、内村を鬼の形相で睨みつけた。

 一瞬間が空いた後、内村は声を立てて笑い始めた。それもそのはず、相手はつい今しがたまで(今もだが)パシリだった男である。そんな男が今更睨みを効かせたところで何ができるというのか。

「休学中に鍛えてたか?復讐するために?何も覚えてないフリして、本当は狙ってたんだろ?1対1なら勝てるってか?」

 内村はさらに凄む。

「上等だ。やってみろよ。どれだけ鍛えたか、確かめてやるぜ?」

 だが勇は涼しい顔で言い放った。

「30秒経過。」

「はっ!マジ頭来た!そーゆーとこがムカつくんだよ!」

 そう言うと内村は、右の拳で勇に殴りかかった。が、呆気なく空を切る。避けられた事にイラ立ちを覚えたその刹那。

 ドカッ! ガンッ!

 鈍い音と共に、内村の顔が二度弾けた。

 内村にとって、ここでの事はあくまで制裁であって、喧嘩ではない。相手の反撃など、全くの想定外だ。そのため内村は今、自分が反撃を喰らった事に気付くのに少々時間がかかった。油断していたとはいえ、全く見えなかった勇の拳に内村の怒りはピークを超えた。

「もうキレた。マジ殺してやる…!」

 そう言いつつ間合いを詰めようとした内村はその時、脚に力が入らないことに気付いた。先程勇が放ったパンチが効いてしまっていたのだ。

(な…なんだ今の?)

 内村は混乱していた。反撃すら想定外だったのである。自分がピンチに陥るような想定など、頭の片隅にすら無かった。

 次の瞬間、内村は左脇腹に抉られるような激しい痛みを覚えた。と同時に一瞬足から地面の感覚がなくなった。勇が放った渾身の一撃は、内村の体が一瞬宙に浮くほどの衝撃だった。

 全身に痺れるような感覚が広がり、身体中が意思に反して弛緩していく。遠のく意識…。内村は気を失う直前、勇の顔を見た。不敵な笑みを浮かべている…。

 

 

復讐の毒鼓 1 (ヒューコミックス)

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