復讐の毒鼓 第4話
(叩き伏せるのは簡単だが…。)
今目の前にいる二人など、札付きの不良だった勇にとっては取るに足らない相手だ。お陰様で今しがた、つい無意識に反応してしまった。しかし秀になりすましている今、大勢の前で正体を晒すのはまだ早い。
「なんか文句あんのか?」
勇(秀)の正体など知る由もない内村にとって勇は、態度の悪いパシリでしかない。
「こっち来い。」
自分の元へ呼び寄せると、早速勇の腹を蹴り上げた。ひざまづく勇に、なおも制裁が続く。
「おいおいおいおい、お前ごときが調子に乗ってんじゃねぇよ。」
勇の頭を何度かはたくと、おもむろに靴が脱げないと言いながら立ち上がった。勇はそんな内村の靴を脱がせる。すると内村は、その靴で勇の顔を叩き始めた。
「年上なら年上らしく、オトナしく言うこと聞いてりゃいいんだ。」
内村が勇を屈服させる様子を、加藤と南原はニヤケ面で眺めている。その時、始業のチャイムが鳴った。
タイミングよくチャイムが鳴ったため、ここでの勇の制裁はこの程度で済んだ。だが加藤はもっとしっかり教育するよう、内村に命を下した。
「ああ、ちょうど溜まってたとこだ。」
いじめの対象となる者はいじめる側にとって、ストレス解消の道具でしかない。理不尽極まりない現実だ。
勇が席に戻ると、山崎が何やらスマホにメッセージを入力し、その画面を見せてきた。画面には、
4時限前に逃げて!殺されるよ。
とある。なるほど。現実を熟知する者からのメッセージだった。
ー街の路地裏ー
人通りも少なく、お世辞にも日当たりが良いとは言えない。こういう所が不良の溜まり場である。今日も3人の、見るからにヤンキー風の男達がタバコをふかしている。そこへ、バイクに乗った大男が現れた。
「なあ、勇のやつ、最近見ねえんだけど見た人いるー?」
「いんや、最近見てねぇなあ…。」
大男の問いに、髪の長い男が答えた。
今この路地裏に集まっている男達は、実は勇の昔からの友人だった。バイクに乗った大男は名を雷藤仁といい、一時は高校レスリング界に名を馳せたスーパールーキーだったが、わけあって高校を追われてからはこの界隈でたむろする身となっていた。
「いや、ちょっと気になってよー。俺っちが抑えてたからまだマシな方だったわけじゃん?」
「たしかに…。あいつブチ切れたら手に負えなかったな。」
長髪の男がそう言うと、ドレッドヘアーの男が口を挟む。
「まさか、べんきょーし始めたとか?」
「なんでもいいよ。また変なことに巻き込まれたりしてなきゃな。」
仁は心配そうにそう言いつつ、その場を去っていった。
「ユウ?誰それ?」
3人のうち1人は勇と面識がないようだった。
ー神山勇 今から3年前の中学3年のとき、高校生の不良30人を1人で相手取り、全員を叩き伏せた。その噂が街中に広まり、勇は伝説の不良『毒鼓』と呼ばれ、恐れられた。
勇と面識のないその男も、長髪の男からそう聞かされ、驚きを隠せないでいた。
内村は勇の胸倉を掴み、焼却炉へと引き摺っていった。引き摺られながらも勇は、情報収集を怠らない。焼却炉裏の通路…チェック。
「うわあああ!」
内村が殴りかかってくると、勇はわざと大声を出し、大袈裟に倒れ込んだ。
「わざとらしく大声出してんじゃねぇよ。」
地面にうずくまる勇に、内村が吐き捨てるように言う。
「せいぜい叫んでな。先公なんか来やしねえよ。」
そう言うと内村は、勇の顔に蹴りを浴びせた。
ここに教師は来ない。連れて来られる途中にも、誰も居なかった。勇は思った。
(ここには、俺とコイツだけ…。他は誰もいない。)
さて、始めるか…。