復讐の毒鼓 第46話
倉田は勇が皆川と戦った時のことを問い詰めていた。
「監視カメラにお前が映ってた。時間は午後2時。学校にも通ってねぇお前がどーして制服でうろついてんだ。」
(皆川を捕まえるために1日学校をサボったのが吉と出たか…?)
カメラの映像をもとにここへ辿り着いたということは、泰山高の件について確実に警察が動いているということだ。条件さえ揃えば、ナンバーズを一網打尽にすることも不可能ではないはず。
「一体何企んでんだ。秀になりすまして復讐でもするつもりか。」
「どーゆーことですか。」
「路地に誰か連れてっただろ。去年の事件に関わってたヤツをな。泰山の皆川だろ。」
「…。」
「説明してもらおーか。」
相手は警察だ。半端なことを言えば、余計に怪しまれる危険性がある。勇は少し倉田を揺さぶってみた。
「皆川が殴られたからってこんな大ごとになるんですか。訴えでもするつもりですか?」
「ほーう?」
近江は教室でドアをノックする音を聞いた。見ると、廊下には五十嵐が立っている。すぐにドアを開けた。
「なんでしょう。」
「お前、神山と手ぇ組んだのか?」
突然の単刀直入な質問に、近江は思わず黙ってしまった。
「オイオイ、マジかよ。」
「な…なに言ってるんですか。」
既に手遅れと知りながらも咄嗟に取り繕う。しかし続く五十嵐の話を聞いて、近江は言葉を失った。
「神山がしてること、早乙女はもう全て知ってるぞ。」
「え?」
一本気な性格の近江は、嘘をつくのが下手なようだ。
「すぐになにか行動を起こす訳ではなさそうだが、招集かけてこれからの行動を指示した。たぶんアイツの頭にはもう計画があるんだろう。」
「あ…あの…なんのことか…俺は…。」
「オレがお前の事気に入ってるの、知ってんだろ?お前はそこらの不良とは違う。まだチャンスはある。早乙女はこれから神山の思い通りに動くつもりだ。でもそれが早乙女の罠だ。神山は早乙女に潰される。」
五十嵐は徐々に近付くと、近江の耳元で囁くように言った。
「わかったか?早乙女にバレた以上、もうこの試合の結果は見えてる。神山はもう早乙女の掌で転がされてるんだ。」
「どうしてこの話を俺に…?」
「お前も一緒に潰されないように。あとで早乙女に、わざと神山側のフリして動きを見てたって言うんだ。」
「え?」
「賢くなれ。今は神山を潰すんだよ。」
近江の頭の中で渦巻く困惑が、チクチクと胸を突き刺した。
勇はこの前江上から貰った通帳を倉田に渡した。
「なんだこれ?」
「秀が持ってたものです。」
「秀が?」
「不良たちが生徒からカツアゲで巻き上げた金を、給料みたいに配ってるみたいです。」
通帳の内容を見た倉田は自分の月給を想い、心底げんなりした。
「おいおい…待てよ。早乙女ってのは毎月50万も取ってんのか?泣けてくるな…。どこで見つけた?」
「秀の遺品整理をしてる時に見つけました。」
勇はあえて江上の名前は伏せておいた。自ら首を突っ込んできたとはいえ、必要以上に厄介事に巻き込むのは良くない。
「うむ…。自分たちの通帳を作って金集めて配ったってだけじゃ、捜査には踏み切れねぇ。令状も出ねぇしな。」
勿体つけた倉田の物言いに、勇は苛立ちを覚えた。その苛立ちを使ってまた揺さぶる。
「じゃあ警察には何が出来るんですか。こんなことも出来ないで。」
「あん?」
倉田の顔色が変わるのを見て、勇はさらに続けた。
「校内暴力の明らかな証拠品が目の前にあるってのに、これでも動けないって。呆れたものですね、この国の警察も。ちょっと怪しいヤツがいると、すぐ犯罪者扱いするくせに。」
2人の視線が激しい火花を散らした。
「先輩!どうなりました?」
待機させていたパトカーへ倉田が戻ると、若手刑事が早速聞きに来た。
「なんかあったら連絡しろって、連絡先渡して来た。」
「え?」
予想外の答えに思わず聞き返す若手刑事には気を留めず、倉田はタバコに火を点けると車に乗り込んだ。
「それからこれ貰ったんだよ。神山秀が生前に持ってたものだとよ。」
「なんですか?通帳?」
帰りの車の中でハンドルを握る若手刑事が気掛かりなことを呟いた。
「しっかしあの学生、どっかで見たことある気がして。」
「そうか?」
「はい…。どこだっけ…。」
若手刑事は運転しながら記憶を探るも、既に奥底へと埋もれてしまっているようだった。
勇は去っていくパトカーの排気音を聞きながら、情報整理をしている例の壁に向かって歩き出した。
(なんかあったらこの番号に連絡しろ。)
倉田刑事 090-3082-XXXX
通帳に気を逸らせる
口座の動きを調べるには令状が必要だ。勇は警察の目を通帳へ向けさせることで、自分の動きから警察の目を逸らさせる作戦に出た。これで1〜2週間は稼げるだろう。
(時間があまり無い。急いで潰しにかからないと…。)
皆川を含めた4人の親衛隊メンバーが文芸部の部室に集まっている。そこへ近江を連れた五十嵐がやってきた。