復讐の毒鼓 第44話
男の肩を借りて歩く皆川の痛々しい姿が、刑事達の目に留まる。
「なんだアイツら?喧嘩でもしたんですかね?」
「この辺監視カメラあったか?」
若手刑事曰く、皆川達が出て来た路地には無いが、近くのカメラが見られるとの事だった。倉田は早速カメラの映像を確認することにした。
「さ…早乙女さん!」
病室のベッドで療養している自分の元に現れた早乙女を見て、前園は目を見開いた。謹慎を破ったのは紛れもない事実だ。どんな咎めを受けるのだろう?戦々恐々とした前園の心の内とは裏腹に、早乙女の口から発せられたのは穏やかな言葉だった。
「お見舞いに来ました。そんな構えることないですよ。いくつか確認したいことがあるだけですから。」
「は…はい。」
「神山の仕業ですか?」
答えあぐねて黙り込む前園に、早乙女が答えを促す。
「正直に話してください。」
早乙女にそう言われ、前園はおずおずと話し始めた。
「は…はい…。在木先輩と一緒にやられました。」
この答えに、傍らで話を聞く右山と佐川の顔色が変わる。
「ヤツの戦い方は?」
「そ…それが、自分は1年なんで神山さんに初めて会ったんですが…。1年前までは弱かったって聞いて…。」
「続けてください。」
「1年の間ずっと喧嘩をしてたとしても、1年であんなに強くなれるのかな…って…。あと…。」
真剣な表情で話を聞く早乙女に、前園は続けた。
「これは自分も聞いた話なのですが…。」
しかしここまで言うと、前園は俯いてまた黙り込んだ。神妙な面持ちの前園の話の続きを再び早乙女が促すと、前園は重い口を開いた。
「近江さんが…裏切ったって…。」
これには早乙女をはじめ、3人とも大きく目を見開いた。
見舞いを終えて帰る途中の病院の廊下で、早乙女は早速指示を出した。
「佐川。親衛隊を集めて下さい。会計の木下さんを含めて。」
教室では木下が携帯の画面を確認している。その画面には先程早乙女が指示した親衛隊招集のメッセージが表示されていた。携帯をしまうと木下は江上に声を掛けた。
「あのさ。」
「え?なぁに?」
「文芸部の部室のカギ、持ってるよね?」
「職員室にあるけど…。」
親衛隊の集まりは文芸部の部室で行われるらしい。何やら不穏な空気を感じた江上はとりあえず部長の責任感を盾にしてみたが、次の木下の言葉にそれは脆くも崩れ去った。
「合鍵持ってんでしょ?バレないとでも思った?」
江上が鍵を机の上に無言で置くと、木下はそれをぶっきらぼうに取り、去って行った。
文芸部の部室に親衛隊のメンバーが集う。その中には皆川の姿もあった。早乙女は全員に座るよう促すと、すぐに皆川から話を聞き出し始めた。
「皆川。神山にやられましたか?」
「はい。」
「神山?」
「1年前のあの神山か?」
皆川の答えに親衛隊の上位メンバーもにわかに色めき立つ。
「君ならある程度分かったでしょう。彼の実力は?」
「強かったです。」
「君が手を抜いた訳ではないんですね。」
「強がってはみたものの…正直太刀打ちできませんでした。親衛隊でいうと3位以上だと思います。」
監視カメラの映像には、倒れた皆川を勇が路地裏へ引きずっていく姿がはっきりと映っていた。この映像を確認していた倉田達は、驚きのあまり思わず目を剥いた。
「神山…?」
「え?だって死んだんじゃ…。」
「あぁ。そう聞いたはずだが…。」
早速戸籍データを調べる若手刑事。すると驚愕の事実が浮かび上がった。
「死亡届…出てないです。」
「…!」