復讐の毒鼓 第48話
「急いでんだ。早く終わらせよう。」
勇は言いながら3人に歩み寄る。
「近江は?」
「来ない。」
「アイツ…話がちげえじゃねーか。」
計画通りに動かなかった近江に不満を漏らす親衛隊メンバーに放った勇の一言が、火に油を注ぐ。
「俺に集中しろ。早く片付けてやるから。」
「テメー、誰に向かって口聞いてんだ。」
計画通りではないとはいえ、3対1。勇の方が圧倒的に不利なことは、火を見るよりも明らかだ。だが勇はこの3人を前に、顔色一つ変えることはなかった。
「先に来い。じゃないと俺から行く。」
「せめてタバコは消してからやんない?ダサいよ。」
咥えタバコのまま余裕綽々の勇に1人が指摘をすると、勇はタバコを吐き捨てる。それを合図に1人が勇に飛びかかった。
「今だ!」
勇の顔に飛び蹴りを放つ。しかし勇はそれを軽々と避けると、蹴り脚を裏拳で殴りその男を吹っ飛ばした。男はそのまま地面に落ちると、殴られた脚を抑えて呻く。
(コイツ…!負けたフリしようと思ってたのに…。)
(そんなレベルじゃねぇ。)
初撃を難なく叩き落とした勇の動きを見て、残りの2人は即座に考えを修正した。
『あんたも学生なのに、どうやって剛の病院代まで払ってくれたの。』
「いえ、お母さん。友達…だから…です。」
電話の向こうの遠藤の母親に、近江は時々言葉を詰まらせながら答えた。まさか親衛隊の報酬、ひいてはその出所など、言えるはずもない。
『うちの剛が踏み外さないように、いつも隣で守ってくれてありがとうね。』
母親の言葉が胸を抉る。近江が言葉を失っていると、電話の向こうから嗚咽が聞こえ始めた。
『うぅ…うう…。』
「お、お母さん、泣いてるんですか?」
『ありがたくてねぇ…。本当になんて言ったらいいか…。清ちゃんがいてくれてよかったよ…。本当に…。ごめんね…。迷惑よね…。切るわね。』
遠藤の母親はひとしきり礼を言うと電話を切った。その電話の相手がよもやこのような渦中にいるなど、知る由もない。しかしこの電話の向こうからの母親の言葉に、近江はひどく胸を抉られていた。肩を震わせながら、拳を固く握る。まるで心の迷いを無理矢理振り払うかのように…。
「作戦変更だ。」
「あぁ。俺も同じ考えだ。」
「あぁ。本気で挑もう。」
勇が先程叩き落とした男も、まだ戦線離脱するほどのダメージを受けてはいない。3人はお互いの意思を確認し合うと、すぐにフォーメーションを作った。勇の正面に1人、左右それぞれ斜め前方に1人ずつという布陣だ。
(少なくともコイツ等は俺の実力を見定める力はあるってことか。)
明らかに雰囲気が変わった3人を見て勇は分析する。
(皆川が隠れてる方に追い詰めろ。)
3人は小声で示し合わせると、一度に攻め入った。3人から次々に繰り出される攻撃を躱しながら、勇の頭の中に1つの疑惑が浮かび上がった。
(これは…俺を倒すための攻撃じゃないな。どこかに俺を追い詰めようとしている…。とりあえずは狙い通りに動いてやるか。)
勇がそう考えながら3人の攻撃を捌くうちに、3人の思惑通りの場所に辿り着いた。
(よしっ、追い詰めた。)
(出て来い、皆川!)
3人の想いに呼応して、勇の後ろにある植え込みから皆川が飛び出した。と同時に後ろを振り向いた勇の目がギラリと光る。
「死ねぇっ!」
咆哮と共に皆川がその手の木刀を振り下ろそうとした刹那、勇が振り上げたカカトが皆川の顎を見事に捉えた。
顎への衝撃で脳震盪を起こした皆川は、糸の切れた操り人形のようにズルリと崩れ落ちる。目の前の光景をただ蒼ざめた顔で見つめることしかできずにいる3人を尻目に、勇は皆川の顔面を殴ると全体重を乗せてそのまま地面に叩きつけた。