復讐の毒鼓 第40話
「武器?」
「お前が覚えてるかはわからないが、戦ったヤツらの中に刃物を持ったヤツがいたはずだ。だが親衛隊の中にはいないはずだ。」
近江の話を聞いて勇は、先日までの遠藤や列達との戦いを思い出した。
「なにか訳があるのか?」
「親衛隊は原則として武器は持たない。しかし親衛隊じゃないヤツらは武器を使えるようにしてる。大体のヤツらが刃物を持ってる。」
「なにかの決まりか?」
「元々はただの脅し用だったんだ。」
早乙女は親衛隊ランク圏外の者達に、他校と喧嘩になった時に自分の身を守れるか疑問なため武器を持つよう言い渡していた。
「だがただの脅しで終わると思うか?刃物を見せてもなんともないヤツらには結局…ただの脅しじゃ終わらなかったんだ。」
「皆川は親衛隊なのに武器を持ってるって訳か…。」
「あぁ、そうだ。もちろん校内では持ち歩いてないが、ヤツは学校にはほとんど来ないからな。」
「じゃあ武器を持った皆側の実力は何位くらいだ。」
近江が急に神妙な面持ちになる。
「12位を軽く越すだろう。」
警察署では、内村が刺された件で事情を聞きに行ったという中村に倉田が電話していた。
「いいから詳しく言ってみろ。」
『はい、それが…見たところ刃物に刺されたというよりは服の裾に刃物が引っかかった擦り傷くらいの感じでして…。仲間内で遊んでるうちにそうなった、気をつけると言ってました。バラバラ殺人を起こしても死刑にもならないご時世です。それっぽっちじゃ何も言えませんでした…。病院関係者に通報してくれたことに礼を言って、生徒達にも注意を促しました。』
「じゃあ病院に来た生徒は誰だ?」
『刺された生徒が内村清隆。一緒に遊んでた生徒が南原光良です。一緒に病院に来たそうです。』
ここでまたタバコを吸おうと箱の蓋を開けた倉田だったが、中がもう空になっているのに気がついた。
「そー言ってたのか?遊んでただけだって?」
『はい、先輩。』
「ところでお前今どこだ?」
話しながら灰皿に残っている長めのシケモクに火を点ける。
『隣の署の丹波と一杯飲もうかなと。』
「あぁ、丹波か。吉永によろしくと伝えてくれ。」
そう言って携帯を切った倉田の元へ、若手刑事が買ってきたタバコを差し出しながら聞いた。
「なんて言ってました?」
「内村清隆、南原光良。どっちも加藤圭と連絡取ってたヤツらだろ?」
「はい、そうです。」
倉田の目に光が宿った。
「学校に乗り込む時が来たようだな…。」
泰山高校。相変わらずこの校長は、露骨に迷惑そうな対応をする。
「ですからねぇ、警察の人にこんなにもしょっちゅう来られちゃ困るんですよ。勉学の雰囲気が壊れるでしょう。それに今日、うちの3年は試験でしてねぇ。」
「会おうとしてるのは2年なんでね。」
校長はこちらとはほとんど目を合わせることなく話す。
「とにかくね。警察がこんなに学校に出入りしてちゃ困るんですよ。加藤圭は退学…いや、自主退学したし、もううちの学校とは関係ないんですよねぇ。」
「数名だけですから、ご協力お願いしますよ。」
「はぁ…今回が本当に最後ですよ。今度からは取り調べするなら学校外でするとかにしてくださいよ。」
「クソッ!」
ネット喫茶の一角で皆川がパソコンのゲームに興じていたのだが、負けた腹いせにテーブルを叩く。壁の上部には『禁煙』と書かれているが、皆川はお構いなしにそこでタバコを吸っていた。
「あの…料金…!」
「あん?」
そのまま店を出ようとする皆川を店員が呼び止める。
「その…お会計がまだで…。」
しかし次の瞬間、皆川は信じ難いセリフを吐き捨てるとそのまま出て行った。
「給料から引いときゃいいだろ。」
「あー、天気サイコーじゃん。カツアゲできるヤツいねぇかな。」
皆川が店を出て1人ボヤきながら歩いていると、目の前に2人組の中学生が歩いていた。皆川は早速その2人の肩を掴み、声を掛ける。
「オイ。」
「はい?」
「金持ってんだろ。出せよ。」
「な…ないですけど…。」
シラを切ってその場を切り抜けようとする中学生だったが、その程度で見逃してくれるほど皆川は甘くなかった。
「オイオイ、誰に向かってウソついてんだ。あぁん?大ごとになる前にとっとと出せよ。」
2人は青ざめた顔で見合わせると、渋々金を出す。
「おー、やれば出来んじゃねーか。生きてりゃこーゆー日もあんだよ、社会勉強だ。わかったな?オメーは?」
「はい…。」
もう1人も金を出すが、どうやら皆川が満足する額ではないようだ。
「オイオイ、ざけんなよ。まだ隠してんだろ?」
そう言いながら勝手にポケットを探ると、案の定金が出てくる。
「ビーンゴ。」
「カツアゲなんかして恥ずかしくねーのかよ。」
ひとしきり金を巻き上げた皆川に、背後から声を掛ける男がいた。
「あぁ!?誰だ〜!?」
振り返るとそこには"神山"が立っていた。