復讐の毒鼓 第42話
早乙女は売店の一角に2人を座らせると、早速聞き取りを始めた。
「警察に何を聞かれましたか?」
「その…刺されたことで…。」
しどろもどろに答える内村に、早乙女の追求の手は止まらない。
「誰に刺されたんですか?」
「ただ遊んでて…。」
「それは警察用の答えです。刃物を持ち歩くヤツなんか、たかが知れてます。答えて下さい。誰ですか?」
思わず黙り込む2人の頬には冷や汗がとめどなく伝う。
「答えられないと?」
「本当に…自分らで遊んでるうちに…ホントなんです。」
今度は早乙女が黙って2人を見つめた。無言の圧力に押しつぶされそうになる。2人にとっては無限に感じられるほどの、しかしほんの数秒の後、早乙女は2人を解放した。
「わかりました。もういいですよ。」
「はい…。」
連れ立って、そそくさと売店を後にする。2人が去ると佐川は、ありきたりな疑問を早乙女にぶつけた。
「あのまま帰していいのかよ。」
「まだ2週間あります。」
「どういうことだ?」
「やっぱり裏で何かが起きていると見て間違いないでしょう。前園のいる病院はどこか分かりますか?」
「前園?なんでだ?」
「1年だから。」
「?」
一緒にいる右山も、佐川と共に早乙女のこの答えを理解しあぐねていた。そんな2人を見て早乙女が言葉を付け足す。
「1年は私に嘘をつくことは出来ないでしょう。」
早乙女の補足で、2人はようやく合点がいった。
学校の塀からこっそり外に抜け出す生徒がいた。皆川を捕まえるようにと早乙女に言われた男だった。
「チッ…。いい度胸だ。電話に出ねーつもりか?」
一切反応がない皆川に苛つきながら歩くその男を、学校近くで張り込みをしていた倉田の目が捉える。すかさず助手席から指示を出した。
「追え。」
ハンドルを握る若手刑事が聞く。
「先輩。内村にも南原にも大したこと聞けなかったじゃないですか。いいんですか?」
中々進まない捜査に焦れている若手刑事とは対照的に、倉田は落ち着いていた。
「これで十分だ。もう校内は大分引っ掻き回されてるハズだ。」
「警察が来た…。この事実だけで揺れるってことですか?」
「去年の事件、覚えてるか?」
ターゲットを目で追いながら倉田が話し始める。"去年の事件"とは勿論、秀がリンチされた事件のことだ。しかし若手刑事はこの事件の後に倉田のいる署に赴任したため、詳細は知らずにいた。
「去年泰山高で神山秀って生徒が集団暴行で病院に運ばれて来たことがあってな。その時俺が泰山高の生徒約10人を捕まえたんだ。」
「はい、そこまでは私も聞いてます。」
「ところが全員釈放ときたもんだ。神山が亡くなったことで、誰が危害を加えたかも分からず終いで、立証も出来ずに結局全員釈放されたんだよ。」
どうやら今追っている男は、その釈放された生徒達のうちの1人らしい。
「その中にアイツが?」
「あぁ。それから俺は泰山高を調べ続けてた。静かになったと思ったら山崎哲郎の自殺…。」
「てんめー!」
皆川の怒号が街に響いていた。だが彼が勇の顔を狙って放ったパンチは、あっさりと避けられた。
「人通りが多いな。見物されながらやられたいか。」
目撃者を作ることは得策ではない。しかし皆川は勇のそんな思惑など知ったことではなかった。
「はっ!避けるだけでいっぱいいっぱいなヤツに言われたくねぇ!」
「そうか。」
勇は一言だけ言うと、次の瞬間皆川の目の前まで間合いを詰めた。間髪入れずにパンチを2発、皆川の腹に叩き込む。後ずさる皆川。だが親衛隊15位はこの程度では沈まなかった。
「カァーッ!ガハハハハ!笑わせてくれるぜ…。クククッ、結構なパンチ持ってるヤツだったとはなぁ。久しぶりに一発やりたくなったぜ。」
(パンチを見極める力はあるのか。)
勇は相変わらず冷静に相手を見る。
「スゲー効いてるぜ。テメェのパンチなら俺もしっかりやってやるよ。」
皆川は一度天を仰ぐようにしてそう言うと、肩にかけていた荷物をほどき始めた。皆川は肩紐のついた、細長い袋を持っていた。その袋から今取り出されたのは、木刀だった。
「手ぇ出す相手間違えたこと、思い知らせてやるよ。」