漫画『復讐の毒鼓』 ネタバレ小説ブログ

マンガ「復讐の毒鼓」のネタバレを、小説という形でご紹介させていただいているブログです。

復讐の毒鼓 第1話

 ピッ、ピッ、ピーーーーーーー・・・

 一つの命の終わりを告げる無機質な電子音が、病室に鳴り響いた。

「秀!いやよ!!秀!!!うわあああああああ!!!!」

 母親が亡骸にすがりつく傍らで、神山勇はベンチに座って俯きながら、視界に映る色彩を失った世界を見るともなく眺めていた。

 

 双子の兄、神山秀が死んだ。父親は土方。早朝、仕事に向かう途中に秀の死の知らせを受け、病院に向かった父親はその途中、車に轢かれて死んだ。

 同じ日に最愛の夫と息子を亡くした母親はうつ病になり、葬式から3ヶ月、心療内科の治療を受けていたある日行方をくらまし、そのまま帰ってこなかった。

 秀は、通っていた泰山高校の不良グループから受けた集団リンチが原因で死んだ。無論、家族は被害届を出し、警察も動いてはいたが、決定的な証拠が掴めず捜査が打ち切りになったと連絡が入った。結局のところ、誰がやったか判らず終いになったということだ。

 勇は誓いを立てた。奴らを許しはしない。俺は今から秀になるーーーー。

 

 いじめに遭っていた秀は優等生だった。一方の勇はというと、中学を退学になる程の不良だった。

 必ず奴らを潰す・・・!

 勇はそう心に誓い、泰山高校へ通い始めた。だが自分の思い通りにいかないことが多過ぎることに、勇はこの場所で改めて気付かされる・・・。

 

ー泰山高校ー

「みんな注目!健康上の理由で1年間学校を休んでいた神山秀が、今日から復帰した。みんな仲良く過ごすように。」

 担任の先生がクラスにいる生徒達にそう伝えると、みんなにあいさつをと促した。

「こ…こんにちは。ひ…1つ年上ですが、よろしくお願いします…。」

 勇が担任に促されるまま、気弱そうにあいさつをしていると、席の後ろの方で不敵な笑みを浮かべながら

「よろしくな。」

と、つぶやく男がいた。

 この学校の力関係(システム)を把握するまでは極力目立つ行動は避ける必要がある、と考えていると、ふいに誰かが勇に話しかけた。

「せ…先輩…。」

「先輩だなんて…タメでいいよ。」

「そ…そう?じゃあ…僕は山崎哲郎。よろしく。」

 よろしく、と笑顔で返す。同時に勇は分析する。薄い存在感、声を掛ける気遣い。この男は自分に対する警戒心を持っていない。喧嘩も勉強もできなければ、いじめに絡むようなタイプでもない、普通の一般生徒(パンピー)だ。

「英語の教科書?次は古文の時間だよ。」

「そ…そうだったね。」

 山崎に指摘され、あわてて授業の準備をしようとした勇の机の上に、乱暴に本を放り投げる音がした。振り返ると、人を見下す目で勇を見る男が一人立っていた。

「どけよ。」

 即座に勇の分析が始まる。高圧的な態度。喧嘩はできる…が、虚勢に過ぎない。勇はこの男を番長ではないと判断したが、とりあえず今は怖がっておくことにした。

「は…はい。君の席は?」

と聞くと、

「自分で探せ、バ〜カ。」

と返ってくる。秀は、こんな理不尽な世界で生きていた…。

「う…ん、わ…わかった。」

しかしすんなりと席を譲った勇に対しその男は、

「おい神山!テメェとぼけてんのか?それともマジで覚えてねぇのか?」

と、ふっかけてきた。

秀を死に至らしめた奴らの一人か?だがこいつは当時1年のはず…。勇はとりあえず記憶を失っている程を装うことにした。

「んだよ、マジで忘れてやがる。まあ覚えてたら転校してただろうしな。」

男はおもむろに勇の胸倉を掴んだ。

「おかえり。また地獄だな。」

 

ー一年前…

雨の降る中、公園で一人の男子生徒が集団から暴行を受けて、地面を這っていた。名札には「神山秀」と書いてある。

「クラスメイトの頼みくらい聞いてくれてもいいじゃないですか。」

秀にそう言いながら近付くその男は、丁寧な口調とは裏腹に威圧感を放っていた。

カンニングがバレたとしても、君みたいな全国1位の優等生には目をつぶってくれますよ。」

「ダメだ…不正行為…なんかに、僕は…。」

秀は先程からの度重なる暴行のために息も絶え絶えになりながらも、男の要求を頑なに拒んだ。

「わからず屋ですね。勉強ができてもこう頭が固いんじゃね。」

そう話す男の足元に這いながら秀は、ゲホゲホと血の混ざった咳をしている。

「一番下は誰でしたっけ?」

ふいに男がそう問うと、

「1年7組、内村清隆です!」

一際大きな声でかしこまった返事をする男がいた。丁寧な男が秀に言う。

「神山君。内村様って言いながら股の間をくぐれば許してあげましょう。」

 この上ない屈辱である。だが秀は、この屈辱を受ける事を選択した。

「う…内村…さ…ま…。」

 そう言いながら内村の足元へ向かって這っていく秀に、男はさらに付け加えた。

「ああ、そうそう。もし股をくぐったら君の両親を殺します。」

 冷酷かつ卑劣な男の言葉に、秀の表情が強張る。そしてまた秀への暴行が始まった…。

 

「おかえり。また地獄だな。」

 そう言って胸倉を掴む男の胸にある名札を勇は見た。

 

内村 清隆

 

内村…とりあえずチェック。勇は復讐リストにその名を刻んだ。

 

 

復讐の毒鼓 1 (ヒューコミックス)

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