漫画『復讐の毒鼓』 ネタバレ小説ブログ

マンガ「復讐の毒鼓」のネタバレを、小説という形でご紹介させていただいているブログです。

復讐の毒鼓 第86話

 バキィッ!

 二階堂のパンチが仁の顔面を捉えた。

(この大軍の中に強ぇヤツが一人二人紛れてやがる。)

 それ以外の残りは仁にとっては取るに足らないものだったが、いかんせんこの大軍だ。仁から見ていかに弱かろうとも、この中に紛れている強い者と戦う際にはこの大軍が足枷になる。だがこの時、一斉に襲いかかってきていた大軍の動きが止まった。その半数以上が入口付近へ視線を向けている。

「あー、クソおせーんだよ、短足ヤロー。」

 ドゴッ!バキッ!ドゴッ!

 仁が視線を向けた先にいる男達が次々に倒れていく。一人一人確実に急所を狙い、一撃で倒していく。迅速かつ正確無比な愛の攻撃は、泰山の男達をまるで小枝でも捨てるかのように倒していった。

「アイツは…?一番弱かった奴?」

 早乙女が思い出したのは、以前セッティングしてもらった決戦の時のこと。時を同じくして佐川も思い出す。

「ただの雑魚だ。俺に一発でやられたヤツだからな!」

 吐き捨てながら一直線に突進した。だがそんな単純で直線的な突進など、愛にとっては格好の的だった。重量級のタックルをひらりと後ろに跳んで躱すと同時に、かんざしの連撃が佐川を襲った。

「ゴフッ…。」

 額、喉、肩、鳩尾への強烈な痛みが、佐川の身体機能を根こそぎ奪う。

「思ったより…弱いんだね。」

「コイツ…!」

 完全に見下して冷淡に言い放つ愛に歯ぎしりする佐川だったが、その動かなくなった身体は続く愛の蹴りに成す術なく沈むより他なかった。

 バゴォッ!

 ナンバーズ幹部があっさりと倒される様子に、全員が固まっていた。そんな中、愛は仁に歩み寄る。2人は互いの拳を突き合わせた。反撃開始だ。

 


 同じ頃、勇は五十嵐に公園の隅まで引きずられていた。適当な所まで来ると、五十嵐は勇を手近な木に叩きつけた。

「そろそろ終わらせてやるよ。オメーで遊ぶのも飽きてきたわ。…なんか言えよおらぁ!」

 バキィッ!

 既に抵抗する力を失っている勇を、五十嵐の無慈悲な蹴りが襲う。力無く倒れる勇の頭を五十嵐は踏みつけた。

「オレも早乙女みてーにかっこよく説教たれてやりてーんだけど、オレは体で覚えさす方が向いてるみてーだわ!」

 ドゴォッ!

 情けの欠片もない蹴りに、勇の体が再び吹っ飛ぶ。

「オイオイ、弱っちぃな。ある程度やってくれねーと殴りがいもねーぞ。」

 相手の状態など関係ない。ただ目の前の者をいたぶる事にのみ快楽を覚える鬼畜のようなその男は、背後に聞こえた足音に振り返った。

「あ?なんだ?」

「ただ…。仲間…だから…。」

 そこに立っていたのは抑えきれない恐怖をその顔に湛える内村と南原だった。

「仲間?テメーらとち狂ったか?ったく…あんま笑わせんなよ。」

「うあああ!」

 2人は恐怖を振り払うように大声を上げて五十嵐に立ち向かった。勝ち目が無い事など、分かりきっていた。だが、同じく勝ち目のない戦いに真正面から立ち向かう男の姿を散々見てきた。そしてその男は、ついに自分達を"仲間"と呼んでくれた。その想いに応えずして、何が男か。内村は一心不乱に拳を振るった。しかし、無情にもその拳は空を切る。五十嵐が避け様に放ったパンチを顔面にまともに喰らって倒れた。続く南原のパンチも五十嵐は難なく躱し、その顔にパンチを叩き込んだ。

 死ぬ程痛かった。何より、怖かった。相手は親衛隊の5位。自分が勝てる訳がない。だが内村は、それが分かっていても諦めなかった。すぐに立ち上がると、五十嵐の顔めがけて蹴りを放つ。しかしやはり当たらない。五十嵐は蹴りを避けながらその足を掬い、内村を地面に叩きつけた。足を絡めたまま倒されて身動きが取れない。力にも技術にも、その差は歴然としていた。

「虫ケラ共め。テメーらみてーなのが1番タチわりぃんだよ。悲しませることになる親御さんに謝るこったな!」

 完全に据え物にした内村に向かって、五十嵐がパンチを振り下ろす。だがその拳は、途中で何かに阻まれた。

「あぁん?」

 予想だにしない感触に振り返った五十嵐が見たのは、自分の拳を掴む勇の姿だった。勇はもう一方の肘を、五十嵐の腕に向かって振り下ろした。

 バキバキッ!

「ぐあああっ!」

 断末魔の叫び声と共に、五十嵐の腕があり得ない方向に折れ曲がる。勇は間髪入れずに五十嵐の服を掴むと、彼の顔を近くの木に叩きつけた。五十嵐の顔面が木に当たった瞬間。

 バキィッ!

 五十嵐の後頭部に勇の肘が直撃した。2度もの頭部への強烈な打撃を受けた五十嵐は、力無くその木の根元に崩れ落ちた。

「休憩終わり。」

 倒れた五十嵐を見下ろしながらそう呟く勇の目には、復讐の焔が燃えたぎっていた

 

 

復讐の毒鼓 6 (ヒューコミックス)

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