漫画『復讐の毒鼓』 ネタバレ小説ブログ

マンガ「復讐の毒鼓」のネタバレを、小説という形でご紹介させていただいているブログです。

復讐の毒鼓 第71話

「あんた通帳どこやった?」

 不穏な空気に慌てて帰宅の途につく江上に、木下が声を掛ける。間に合わなかった。

「え…?通帳…?何のこと…?」

 一応シラを切ってはみたものの、やはり通用しない。

「ちょっと優しくし過ぎたみたいだね。このままなかったことにするとでも思った?」

「え…?何の…こと?」

 こっそり秀に渡した。しかも、それが実は双子の弟、勇だった。そんなことは、口が裂けても言えない。江上には見え透いていても、シラを切り通す以外に選択肢がなかった。そんな江上を無理矢理連れて行ったのは焼却炉。

「塾…あるんだけど…。」

「だから何?」

 何とか理由をつけてこの場から逃げなければ。半ばパニックの江上がやっとの思いで絞り出した口実も、やはり木下には通じなかった。と、その時、戦々恐々とする江上の視界に一人の男の姿が映った。自分を挟んで江上が送る視線に、木下も自分の後ろにいるその男の気配に気付く。

「アンタ誰?」

 ちょうど自分の真後ろに立っていた仁に、木下がつっけんどんに訊く。しかし訊かれた本人は相変わらず飄々としたものだ。

「ワーオ。勝ち気な女って、俺っち結構好きだぜ。」

「は?何言ってんの?あたしのことボコるつもり?」

「まさか。俺っちただの外野だし。どーぞ続きやってよ。」

 臨戦体勢の木下は、自分とは対照的に緩い態度の仁を暫く睨みつける。

「コイツ誰?」

 不意に仁を指差しながら訊かれた江上の口から、意外な答えが帰ってきた。

「シュウの…友達よ。」

「友達?」

 


 作戦会議を終えた勇が自宅に帰ると、すぐに異変に気付いた。

(開いている?)

 玄関の鍵をかけ忘れた覚えは無い。すぐに中を確認する。

(異常はなさそうだが。)

 リビングをひと通り見渡してみるも、荒らされた形跡はない。今朝家を出た時と何ら変わりないその風景の中に、勇は一つの異変に気付いた。壁にかけてある、漫画『総帥』のポスターの額が少し歪んでいる。

「…!」

 開けられた玄関の鍵。歪んだ額縁。勇は今日、留守にしている間に自宅に起こった出来事を概ね悟った。

(決戦の時が近づいているようだ。まさか家にまで侵入してくるとは…。)

 ここから先の話は、どちらにしろ週が明けてからだ。勇はひとまず週末を休息に充てることにした。

 


 翌週。登校中の勇に声を掛ける江上は、どこか浮かない表情をしていた。

「先週木下さんと話したわ。」

「木下?何だって?」

「あなたと話したいそうよ。焼却炉に行ってみれば。」

 やはりいつもの弾むようなテンションとは大分違う。江上は勇の顔をろくに見もせずつっけんどんにそう言うと、さっさと校門へ向かって歩いて行った。

(なんだあの態度…。なんかあったのか?)

 


 焼却炉の倉庫の壁にもたれて、木下は秀(勇)の到着を待つ。そこへ勇が現れると、木下は無言で勇の頬を張った。

 バチンッ。

 ビンタの衝撃でメガネが飛ぶ。

「通帳見たなら1番にあたしに話してよ!」

「え…?」

(なんだこの状況は。)

 口を開いたかと思えば、何を言い出すのか。勇の混乱をよそに木下が訊く。

「通帳どこやったの?」

「なんだお前。急に馴れ馴れしくなんなんだ。」

「は?」

 いくら女の子が相手とはいえ、(勇としては)初対面でいきなり頬を張られては黙ってはいられない。2人は暫く無言で睨み合う。木下はおもむろに勇の髪を掴むと、何を思ったか突然勇に口づけをした。

「エラくなったもんね。本当に記憶なくしたワケ?顔真っ赤にして恥ずかしそうにしてたボクちゃんじゃないじゃん。」

 キスを終えても未だに訝しげな顔をする勇に、木下が食ってかかる。昨年の事を覚えていない旨を伝える勇に木下が放った言葉に、勇は驚きのあまり暫く口を閉じるのを忘れた。

「はんっ、笑わせないで。去年あたしと付き合ってたでしょ。」

「な…なんだと?」

(秀のヤツ…大人しそうな顔してこういうのがタイプだったのか。)

「その顔やめてくれる?ムカつくから。」

 あまりの驚きに勇がしていた表情に辛辣な言葉を浴びせると、話を本題に戻した。

「通帳、誰に渡したの?」

「警察に…。」

「警察?アンタらしいわね。」

「でもなんでだ?」

「なんでかって?アンタが発見しやすいように、あたしがわざと置いておいたからよ!」

「…!」

「ついでにもう一つ教えてあげようか?去年は言えなかったけど、『その他』は校長なのよ!」

「なに…?」

 

 

復讐の毒鼓 5 (ヒューコミックス)

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